戦後仕置き

和議の条件が決まり、誓紙を交わした後、戦後処理について話をする為、三浦時高に座間城へ足を運んでもらい、用意していた地図を見ながら今後について話をする。


部屋には俺と太田道灌、成田正等そして三浦時高の4人だけだが、俺を含め全員が真剣な表情で地図を覗き込んでいる。

「このまま扇谷上杉定正と大森実頼が大人しくしているとは思えませぬ。 三浦家と豊嶋家で所領を分けるとしても付け込まれぬようにせねばなりませぬが、宗泰様は如何お考えで?」


道灌が地図を見ながらそう言うと、同意見なのか三浦時高、成田正等が頷く。

確かに道灌の言う通りで、定正と実頼は1年ぐらいは大人しくしているとは思うけど、確実に所領を取り返しに来るはず。

江戸城を拠点とする俺だと有事の際に出遅れる可能性が高いので、地図を指さしながら三浦家に治めて貰う地域を伝える。


「宗泰殿、上足柄郡と下足柄郡の一部に加え大住郡、高座郡の半分も三浦家にと申されるか?」

「はい、此度三浦家が共に戦って頂けたからこそ得られた地、当然三浦家が治めた方がよろしいかと。 それに鎌倉に堀越公方である足利政知殿を迎えるとなれば三浦家が領する鎌倉郡の土地をそれなりに与えねばなりませぬので、迷惑料込みではありますが」


「確かに何の力もない公方を鎌倉で預かるとはいえ、迷惑料とは、政知殿をどうするつもりじゃ?」

「どうもしませんよ。 ただ鎌倉に住んで頂き我らが必要な時に公方として働いて頂くだけ、それ以外は鎌倉で遊興にでも耽って頂くだけです。 幸い公家衆も多く下向してますから、連歌の会や蹴鞠などの日々を過ごしてもらおうかと。 元は天龍寺で僧をしていた方、連歌など得意と思いますので」


「鎌倉府を復興するが形だけという事か。確かに下手に口出しされると面倒だからな。だが古河の足利成氏が黙っていまい。 合戦となるのではないか?」

「なるとは思いますね。 恐らく下総、上総、安房の海賊衆を使って鎌倉を海上から襲うかと。1~2度襲われれば公方も我らの言う事を聞くようになるかと。 実際鎌倉に来るという事は堀越御所(静岡県伊豆の国市寺家)を含め伊豆を手放すという事ですから、帰る場所の無い公方は鎌倉にしか居場所がなく、我らしか頼れる者がいなくなりますので」


「公方様を道具とするとは…、頼もしい婿殿よ。 だが時高殿に上足柄郡を任せるとなれば、伊豆と駿河駿東郡の北部が豊嶋家の飛び地とならぬか?」

地図を見ながら話を聞いていた成田正等が難しい顔をしながら、もっともな疑問を口にする。


「確かにそのとおりにて、そこで三浦家には往来の自由を保障して頂きたいと思っております。 駿河駿東郡の北部は別としても、伊豆は海賊衆を傘下にする事と鉱山以外には興味はないので、出来れば伊豆は三浦家と共同で管理をしたいぐらいの土地故」

「共同管理とは境を決め、伊豆を両家で分けるという事か?」

共同管理なんて言葉を初めて聞いたという顔の時高が不思議そうに問いかけるが、両家の間に亀裂を生むのではないのか? という顔をしている。


「伊豆の地を両家で分けるとなれば境争いや他家に付け入る隙を与えますので、言葉のとおり共同で管理するのです」

「宗泰殿、我らには宗泰殿の言う共同管理というものが理解出来ぬ。申し訳ないが説明してくれぬか?」


時高がそう言うと、道灌も正等も同意するかのように頷き、こちらを見ている。

そうだよね。

共同管理って言われても普通なら境を設けて両家で分けると思うもんね…。


「共同管理とは言葉そのままで両家が共同して伊豆一国を治める事です。 両家から代官を派遣し、年貢、産物、そして国人衆の支配を行うのです。 当然年貢は折半、産物による利益も折半、鉱山による利も折半という事です。 そして伊豆の代官は両家から3人ずつ派遣し、話し合いをもって物事を決め、重要事項は某と時高殿、または高虎殿、双方に指示を仰ぐといった感じです。もちろん今の戦乱の世で共同管理など、よほど強固な信頼関係がなければ出来ませぬが、当家と三浦家ならば問題ございますまい」


まさか境を設けず、年貢やその他の利を折半するなどと言われるとは思ってなかったようで、3人が驚いたような顔をしている。

まあ本音は伊豆の鉱物資源は豊嶋家が独占したいんだけど、飛び地だから有事の際に真っ先に兵を動かす役回りを三浦家に押し付けたので折半にした。

鉱山の位置はネットで調べられるので、一気に採掘せず、完全に豊嶋家が支配できるようになった時、本格的な採掘をすればいいし。


「だが国人衆が反旗を翻したり、他国が侵攻してきた際はどうする? 代官だけでは対処できまい」

「某もそう思います。 ですので代官の内1人は将として兵を率いる武官とし、金や米で雇った常備兵を常駐させます。 いざとなれば、従う国人衆と雇った常備兵で時間を稼ぎ、その間に豊嶋、三浦の兵を援軍として送れば良いかと」

「金や米で雇った兵を常駐させるか…、確か宗泰殿は金で雇った専門の兵を抱えて農繫期でもその兵は動かせるのだったな。 確かに良い案だ。小田原から三浦の兵、駿河駿東郡の北部より豊嶋の兵が援軍として向かえる。 東西から挟める訳だな」


納得したような顔をした時高と道灌、そしてイマイチ理解していないが分かった振りをしている正等。

うん、成田正等さん、理解出来ませんって顔に出ているからね。

現時点で時高が理解してくれればいいんだから、無理に分かった振りしなくても良いんだよ。

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