和議

家宰である長尾忠景が古河公方こと足利成氏に討ち取られた事でさらに劣勢となった関東管領上杉顕定は長尾景春に対し和議の使者を送った。

和睦の条件は長尾景春を関東管領山内上杉家の家宰とする事、景春が足利成氏と手を切る事、主家である関東管領山内上杉家へ忠節を誓う事、相模、武蔵、上野国の国人衆達の所領は和議成立時点の物とする事、乱に加わった者を罪には問わない事。


和睦の条件としては概ね長尾景春に有利な物で景春としては足利成氏と手切れとなっても痛くも痒くも無いし、そもそも関東管領家の家宰になれなかった事で起こした乱の為、家宰の座に就けるなら和睦の条件を呑む事に異論はない状況だ。

それに対し関東管領上杉顕定は相当追い込まれていて勢力の減退に歯止めをかける為、景春に有利な条件を出してでも乱を収めざるをえないと言った感じだ。


上杉顕定から長尾景春に和睦の使者が送られ、承諾する旨の返書が届き、その5日後、平井城に長尾景春が自ら赴き和睦を結び、翌日、正式に関東管領上杉家家宰に任命された。


これにより3年続いた長尾景春の乱が終結し相模、武蔵、上野国に一時の平穏が…訪れなかった。

一方的に長尾景春から手切れをされた事に古河公方こと足利成氏が激怒し即座に陣触れを出し兵を挙げ8月末に利根川を渡河し太田道灌が居る栗原城(東武伊勢崎線、鷲宮駅近く)を20000人の兵で囲んだ。


和睦が成立し乱が終結し農繁期が近い事もあり、付き従って来た国人衆達を帰国させ手元には上杉顕定より与えられた3000人の兵士しか居ない道灌は城から打って出る事も出来ず、上杉顕定を始め各地に救援を求める使者を送り籠城をしたが関東管領である上杉顕定は沈黙を貫いた。

恐らく長尾景春と和議を結び家宰とした事で道灌が還俗してから今までに挙げた手柄に対し相応の褒賞を与えたくないのか、それとも敵対していた景春が援軍に反対したのか…。


豊嶋家にも道灌から援軍の要請が届きはしたが、当初無視をするつもりだったのに義祖父である道真からも援軍の要請があった為、陣触れを発し兵を参集すると共に風魔衆を栗原城方面に放った。

道真からの書状には道灌が籠城を続け城を枕に討ち死にするのであれば良いが、関東管領上杉顕定に見捨てられたと判断し古河公方こと足利成氏に下った場合、関東管領と古河公方の争いが激化すると書かれていた。

確かに見捨てられたとなれば既に失うものの無い道灌が足利成氏に降伏し今度は成氏軍を率いて攻めて来る可能性がある。

豊嶋家と遺恨のある道灌が足利成氏に降伏し家臣となった場合、豊嶋家への圧力が予想されるが反対に救援に向かえば遺恨が少しは晴れる可能性がある。

何より再度敵方になると厄介なので今は助けると言った感じだ。


陣触れを発した翌日、出陣準備を整えた兵を従え江戸城を出発する。

俺が率いる陣容は専業兵士のみで構成され、足軽隊2500人、騎馬隊1000人、鉄砲隊300人、大鉄砲隊50人、合計で3850人だ。

川越城には武石信康が1000人の兵を率いて在城しているのでその兵を合わせると4850人となる。

本来であれば一門衆を始め傘下の国人衆、重臣達にも兵を出させたい所だがもうすぐ農繁期である事を考慮し領内の防衛強化するように命じた。

因みに照と彩も出陣すると言い出したが今回は丁重に留守居を頼んだ。

2人共不貞腐れていたが今回は道真からもダメと書状が来ているからとウソを言ったら諦めてくれた。

照も彩も何で合戦に付いてきたがるのか…。


風魔衆には栗原城の道灌に援軍が向かっている事を伝えるよう指示を出し、陸路で川越城へ向かい、川越城で太田資常、道真軍1500人と合流し栗原城を目指す。

途中、久喜辺りで成田正等軍1500人、太田資忠軍1000人と合流し総勢約9000人程となる。

実は成田正等には道真からの書状が届いて陣触れを発した直後に俺からも援軍要請をしたんだよね…。

どうやら成田正等は俺に娘を娶らせたいらしく照と彩と婚儀を済ましたと言うのに何度も使者を送って来ていたから正妻、側室の上下関係は作らず妻は同等の立場とする事を条件に援軍を頼んだら農繁期間近だと言うのに1500人の兵を出してくれた。

それも当主が自ら率いて…。


久喜で一旦陣容を整え軍議を開くが相手は20000人、こちらは栗原城に籠城する道灌軍3000人を頭数に入れても13000人と兵数で劣っている為、どうやって足利成氏軍を撃退するかではなくどうやって道灌を救出するかとの話になりつつある。

「救出しても栗原城を取られ幸手一帯が成氏の手に落ちれば今後武蔵への脅威となります。 ここはどうやって道灌殿の軍と連携し成氏軍を打ち破るかを考えては?」

「婿殿、それは難しいと思うぞ、相手は20000の兵だ、栗原城に抑えの兵を3000程残しても我らを上回る。 それとも婿殿には数を上回る成氏軍を打ち破る秘策でもあると?」


誰が婿殿だ!!

まだ娘は娶っていないのに既に娘の夫扱いしてるし!!

まあこの合戦が終わればすぐに婚姻の話が進み早ければ年内に輿入れするんだろうけど…。


「秘策という程ではありませんが無くは無いです。 要は栗原城に残した抑えの兵を排除し道灌殿の軍が我らと戦う成氏軍の後方から攻めかかれば数はあまり意味をなさないのでは?」

「確かにその通りだが言うは易く行うは難しだと思うが宗泰殿はそれが出来ると?」


怪訝そうな顔で道灌の弟である太田資忠が問いかけて来る。

確かに普通に考えたらそう思うよね…。


「あるにはあります。 そして多分成功します。 実際江古田原沼袋では道灌殿の軍は混乱し壊走しましたし、それ以降の合戦では使用していないので初見の者には効果絶大かと…」

「ふむ、道灌より聞いたが大きな音の出る何かか? 以前ワシが聞いた時は知らぬ存ぜぬと言っておったのに、今回は隠し立てせぬのだな…」


「まあそれは当家の重要な秘密なので口外無用としておりました。 一度知られれば対策が立てられますし周囲に広まるのを遅らせたかったので…。 それはさておき…」

実は道真から以前から聞かれていたが知らぬ存ぜぬを貫き通していたので、その事を謝り、そのまま俺の考えた作戦を伝える。


「ほう、婿殿は最初は防戦に徹し道灌殿が打って出たら攻勢に転じると…、これは面白い! まさかこんな戦い方があるとはな!」

「全くじゃ、ワシも長く戦場を往来したがこんな戦い方は初めてじゃ!」

「しかしこれで成氏軍が攻めかかって来なかったら如何するので?」


各々思い思いの事を口にし、最後に資忠が疑問を呈するが、その時はこちらが挑発し攻めさせるとの事で納得させた。


道灌の使った少数の騎馬で挑発するのは意外と効果あるもんね。

さて、道灌に作戦を伝えてこっちも準備をしなきゃ…。


合戦は3日後ってところかな。

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