攻略の命と謀略

川越城に入城し約1ヶ月、8月となり暑さも盛りとなった頃、平井城に居る関東管領上杉顕定より川越城主である太田資常とその後見である道真と援軍に来ている俺に書状が届いた。

今回はこっちの事情は関係ないと言いたいのか使者は書状を届けるとそのまま話す事無く帰って行った。

恐らくあれやこれやと理由を付けて拒否をさせないつもりなんだろうけど…。


そして書状の内容は小机城(現在の横浜線小机駅近く)を三浦時高に落とされ兵を率いて根古屋城(現在の西武遊園地近く)に逃れた矢野兵庫が城主の山口高忠や近隣の国人衆を糾合し合戦の支度をしているので川越城から兵を出し討伐せよとの事だ。

書状には扇谷上杉家が相模の七沢城、武蔵の沢山城より兵を出すので挟撃するように、既に沢山城に相模の兵は到着している事だけ書かれ、扇谷上杉家の誰がどの程度の兵を出したのかは書かれておらず、俺と道真、資常へは直ちに出陣せよと書かれている。


「資常殿、道真殿、1つお伺いしたいのですが、川越城周辺には長尾景春に味方する者は少ないのでしょうか?」

「いや、坂戸の辺りは景春に味方する国人衆ばかりじゃ、故に川越城が空になったと知れれば攻めかかってくる可能性がある。 一部の国人衆は密かに関東管領に内応しておるが表面上は景春に味方しておる」


「表立って関東管領方に味方してはいないという事は景春の命があれば逆らわないという事ですね…。 なればここは策を講じ根古屋城へ向け出陣したが坂戸の国人衆が川越城を攻めようとしたので引き返したと言う事にしましょうか」

「ほう、宗泰殿は坂戸の国人衆に伝手があると?」


「いえ、有りません!! ただ坂戸の国人衆に伝手は無くても長尾景春は我が伯父、故に景春に関東管領に内応していると思われる国人衆を使い川越城へ兵を進めさせます。 そして我らは途中で引き返しその国人衆達を討ち取り今後は川越城を守る為に出陣は出来ないと言う体裁を取る。 如何でしょう?」

「宗泰殿、今申された事は関東管領様のお味方を討ち景春に味方するという事ではないのか?」


俺の策を聞き、川越城城主の太田資常が慌てたように声を発するが横に居る道真は涼しい顔をしている。

資常は若いからか敵と味方と言う見方をしてるから国人同士や姻戚関係とか複雑な繋がりってのをあまり知らないんだろうな…。

俺の方が若いけど…。


「しかしそれでは川越城から敵を追い払った後、再度根古屋城攻略を命じられるのではないか? それとも扇谷上杉家の兵だけで落とせると?」

「その辺は相模より扇谷上杉家が兵を出すという事は川越に居る兵だけでは根古屋城は落とせないという事でしょうから相模から来る兵には帰っていただきます。 誰が兵を率いて来るかは分かりませんが、七沢城(現在の神奈川県立七沢森林公園付近、厚木市)あたりか沢山城(現在の小田急線、鶴川駅付近)、もしくはその両方に火の手が上がれば引き上げるでしょう」

話を聞いて道真はそれ以上深く追及はせず、出陣の日取り、陣立ての話を始めた。


大体の話が纏まり、5日後に出陣となったので、川越城に連れてきている風魔衆に命じ風間元重へ七沢城、沢山城へ臭水(原油)を使った最新兵器である滑液包炎を使用し放火を行うよう指示を出し、別の風魔衆には長尾景春に書状を届けるよう命をだす。

川越城城主である太田資常、道真親子は連名で沢山城へ5日後に出陣する旨の使者を出した。


俺が長尾景春に出した書状には川越城は渡せないが坂戸の国人衆で関東管領に内応している者を教え、その国人衆を中心にして7日後に川越城へ兵を進め川越城にいつでも攻込めるよう入間川を渡河した所で数日待機し圧力をかけて貰う。 替わりに根古屋城を攻めようとしている扇谷上杉家の七沢城、沢山城を放火し引き返させるのを対価とすると記載しておいた。


書状を持った風魔衆が景春の居る鉢形城へ向かった翌日の昼には既に返書を携えた風魔衆が戻り、概ね了承したとの事だったが、持って来た書状には扇谷上杉家の兵を叩いておきたいので城に火を放つのは上杉の兵が根古屋城まで1日の距離に来た際にするように、また川越城に向かわせた国人衆は出来るだけ討ち取るようにとの事だった。

景春としても関東管領に内応している国人衆の存在は邪魔だったようでここで消してその所領は信頼の置ける者に任せたいのだろうな。


風魔衆を再度風間元重の元に走らせ景春の要望通りタイミングを計って放火し、同時に根古屋城の周辺に七沢城と沢山城が景春方の手に落ちたと噂を流すよう指示を出し、俺は道真の元に向かい策が整った旨を伝え入間川を渡河した坂戸の国人衆をどうやって殲滅するか打ち合わせをする。

とは言え俺達が引き返してきたと知れれば兵を引くかもしれないので夜の内に行軍し早朝に奇襲をかける事になった。


そして出陣の日、川越城に照と彩、そして太田家の兵100人、豊嶋家の兵100人を残し、太田軍1000人、豊嶋軍1000人の合計2000人の兵で川越城を出陣した。

照と彩もついて来ると言っていたが道真と俺が全力で説得し川越城を守る守将としての役割を与えて留守番させた。

実際の指揮は太田家の家臣と俺の家臣が執るがそうでも言わないとついて来るので仕方なくそうなった。

道真のジジイ、照に甘いからガツンと言わないんだよね…。

それどころか照が甘える感じで付いて行きたいと言ったら危うく頷きそうになってたし!

どんだけ爺バカなんだよ!!


まあそもそも川越城に連れて来た俺が悪いんだけど…。

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