民心把握

論功行賞の後、翌月には一門衆を始め転封となった国人衆達が本格的に新たな所領へと向かい始めた。

現在長尾景春の乱が真っ盛りで武蔵、相模、上野で争いが頻発しているが表向きは関東管領に味方していると公言したものの、実際は景春と繋がっている豊嶋家は両勢力から攻撃を受けることなく粛々と新たに得た所領の統治を盤石にすべく内政を進めている。


既に白子朝信の家臣が検地を終わらせ、現在は今年の田植えに向けて各村々を周り塩水選、苗を育ててからの移植栽培、そして正条植えを教えている。

他にも豊嶋家の支配地域では農業改革により収穫が増えても5公5民とし新たに開発し開墾した土地は農家の次男、3男などに与え独立させる旨の触れも出している。

何より各村の長や顔役に発展した大泉を見せ豊嶋の農業改革通りにすれば数年で大泉同様に村々が栄え飢える事もなくなるという事を実際に見せて納得させた。


ジャガイモは芽を食べると腹を壊すので厳重に注意を促し、サツマイモは冬場に干し芋にする事で保存食となり、また他地域で良く売れている商品となるので金銭収入にもなるという事で、種芋を土産に渡し豊嶋家から派遣された農業改革指導者の指示通りに栽培するように伝えてある。

これで派遣した農業改革指導者が豊嶋家の支配を良しとしない者に害される確率は減るし、害をなそうとしても農民が守るなり匿うなりしてくれるはずだ。

なんせ指導者から指導を受けた通りにすれば収穫高は大幅に上がり、芋などの栽培が軌道にのれば食料に困らなくなるうえ保存食にし余った分は売れば金になるのだから害する方が自分達にとってマイナスになると理解しているはずだ。

なんせ大泉の発展は恐らく見に来た長や顔役の驚きようは凄かったし、見た事も無い農機具や水車を使った揚水などを見て今まで田畑に出来なかった場所もこれなら田畑に出来ると喜んでいた。

そして現在進行形で道の整備を進めており、領内を往来しやすくしているので商人の動きも活発になるはずだ。

今年の秋に昨年を上回る米の収穫をする事で豊嶋家の統治は盤石になる。

なんせ農民達からしたら豊嶋家の支配は自分達の生活を豊かにする事を優先していると思わせているのだからわざわざ背いて領主を追い出したりして他の領主が治めるようになったら収穫高が多い事を名目に多くの年貢や税を納めるよう言われる可能性があるからだ。

恐らく、豊嶋の農業改革が行き渡り豊かになったらそれを奪われまいと合戦の際なども進んで手を貸してくれるだろうな。


因みに干し芋、綿花、菜種に関しては領主が農民から買い取りそれを一括して商人に売るようになっている。

これで税を増やさなくても農民から安く買い、手間賃を上乗せして商人に売る事で領主の懐も潤うはずだ。

それに加え急ぎ耕作に向かない丘陵や台地は食べれる木の実を実らす木を残し、ハゼの木を植えるように指示を出している。

これは結果がでるのが数年後になるが、実がコンスタントに収穫できるようになれば蝋燭の増産に繋がり更に金銭収入が増えるからだ。


昨年の江古田原沼袋の合戦で俺の率いる専業兵士の有用性を理解した諸将が専業兵士を組織したいが安定収入が無いと難しいと困っていたので金銭収入の手段として導入を推奨したと言う経緯がある。

まあ専業兵士雇用に関しては俺が教えた扶持米制度を導入し多くの領主が専業兵士を組織しだしているが石高は1万石でも実質収入は5千石だし、家臣に与える領地を差し引くと領主の所得は大幅に減る為、どうしても金銭収入が必要になって来るのだ。

おかげで江戸湊から江戸城の城下に作っている港へ引っ越しの準備をしている商人に加え、宮城、城下に居を構える商人、品川湊の商人も大忙しで各領主の元へ行き今後の取引についての相談をして回っている。


そんな中、田植えが終わり、農作業も一段落した頃、関東管領上杉顕定から出陣を促す書状が届いた。

内容的には誰かを攻めろと言う訳ではなく、川越城の守りを固める為、川越城に援軍を送れとの内容だ。

以前、兵の損害が酷いので兵は出せないと言質は取ったものの所詮は上杉顕定の正式な言質ではないので、完全に無視された感じだ。

書状を持って来た斉藤勝康と言う人の口ぶりからして相応の兵を出せと暗に要求しているよう感じられる。

つい最近、相模の三浦時高から書状が来て話があるから7月に江戸城に来るって言ってたから俺は川越城に行けないんだよね…。

書状には俺が兵を率いて川越城へ援軍に行けとは書いてないけど誰に行って貰うか悩みどころだ。


一門衆や傘下の国人衆は叔父の泰明を始め殆どが領地の民心把握と開発に忙しいし、父に行って貰っても本当に援軍として行くだけで道真と今後について話とかしなさそうだし…。


う~ん、俺の直臣だし、今回は武石信康を大将に矢野元信と馬場勇馬を付けて専業兵士を1000人程送ろう。

この一年で専業兵士が2300人になったとはいえまだ訓練途中の兵が多いし、鉄砲隊は残して古参の専業兵士を中心に1000人も送れば文句は言われないだろう。

三浦時高が江戸城に来た後で、100人程率いて俺も川越に行き1ヵ月程滞在すればそれなりのアピールにはなるだろうし。


それにしても話があるって時高は何の話をしに来るのだ?

書状でやり取りすればいいのにわざわざ江戸まで来るなんて。


まあ船で来るから一泊2日ぐらいのノリで来るんだろうけど。

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