扇谷上杉家の家督

関東管領家の家宰を長尾忠景にした事で、上杉顕定は家臣や国人衆の動揺を抑える為、五十子陣いかっこのじんから上野にある居城の平井城へ戻り、代わりに五十子陣は扇谷上杉家の当主である上杉政真と相模の国人衆が入った。

家中が動揺している以上、このまま五十子陣に居るより居城に戻り家臣や国人衆の動揺を抑える事に注力する事を選んだらしい。


豊嶋家では関東管領家の状況をみつつ、家宰を景春が継げなかった事で起こり得ることに対しての対策を話し合った。

とは言え、長尾忠景がどのような事をするのか予測が付かない為、当面の間は様子見をする事になった。

道灌が裏で糸を引いているかは不明だし、風魔衆もその辺は調べきれなかったんだよね。

忍びって言っても普通の人間だし、何年も前から対象の家に入り込んでないと流石に調べられんよね。

風魔衆はまだ活動しだしてから数年しか経ってないし、そこまで人員も増えてないから無理なものは無理だ。

俺としては無茶振りは極力したくないので、平井城周辺での情報収集をさせている。

人間離れした能力を持つ忍びがいるなら望むだけの所領を与えて召し抱えたいよ。

居ればだけど…。


関東管領家では家中の動揺を抑え、家宰の忠景は前家宰だった長尾景信の影響力を削ごうと必死になっている感じで国人衆が持つ利権などを再度認める書状を送りまくっているらしい。

そして家宰になれなかった景春は、居城の鉢形城に引きこもっている。


そんな混乱の中、季節は流れ、11月になった頃、風魔衆より古河に兵が集結しているとの情報がもたらされた。

そして12月、古河の足利成氏が五十子陣を急襲した。

古河に兵が集まっている事は把握していたはずなのに上杉政真はまさか五十子陣を攻めて来るとは思っていなかったのか、大した抵抗も出来ず、成氏の兵に討ち取られてしまった。


これも史実通りに進んでいるけど、俺としては疑問だらけだ。

古河に兵が集結しているのは分っていたはずなのに、何故援軍を呼ばなかった? 五十子陣は攻められないと思っていたのか? なら他の場所が攻められる可能性があるのに何故国人衆をその場所に集結させなかった? 考えても考えても何故と言う疑問がすべてに付いて来る。

何故五十子陣に重臣が殆どいなかった? いくら強襲されたとは言え成氏の兵が向かって来ているのは最低でも数日前にはわかるはずなのに上杉政真は何故抵抗と言う抵抗が出来なかった?


「ああ~~~!!! わからん!!」

ネットで調べても特に情報は無いし、風魔衆からも結論が出るような情報は無いし、考えれば考えるだけ全てが想像の域になり誰もが上杉政真を意図的に消す為に糸を引いていたと思えて来てしまう。


「もう知らん!!!」

部屋で色々と考えながら寝転んでいたが、流石に無駄に思えて来たので考える事を辞めた。

無駄に考え政真周辺の人間達を疑ってたら何かあった際に先入観に囚われて足元をすくわれそうな気がする。

だったら今回の事は政真の不用心として割り切っておいた方が良い。

それにしても確か扇谷上杉家の次期当主は政真の叔父にあたる定正が継ぐんだよな…。

今の所は若干ネットで調べた情報との違いもあるけど恐らく史実通りになるんだろうが、当主が変わった事で今後どうなるか。


山内、扇谷、両上杉家の混乱が続く1473年も終わり、年が明け1474年になった。

扇谷上杉家は史実通り昨年の12月に五十子陣で討ち死にした政真の叔父にあたる定正が重臣達の協議の末当主となり、相模、武蔵野国人衆にその事を知らせる書状を送っている。

父である泰経も書状を受け取り相模の国にある扇谷上杉家の本拠地である糟屋館(現在の神奈川県伊勢原市にある伊勢原大山IC付近)に出向き、前当主への弔問と当主就任の祝いに出向いて行った。

凶事と吉事が一緒になってはいるのが気になるが、政真の葬儀は昨年末のうちに済ましていたようで扇谷上杉家としては新当主のお披露目と言った感じが強いようだ。


前当主が討ち死にしても扇谷上杉家は揺るがないと内外に見せつけるのが目的なんだろうけど現代感覚からすると死者の弔いよりもお家優先と言うのはあまり良い印象は受けない。

しかも政真には子が居るのにも関わらず重臣たちの協議の結果叔父である定正がって、協議はそんなに早く終わるものなのか?

当主が討ち死にして半月もしないうちに嫡男ではなく叔父を当主にするとか既に既定路線だったかのような速さだ。

まあ時代的にはそんなもんなんだろうけど、せめて四十九日法要を済ませてからそういう事をやれば良いのに。


父が糟屋館に行っている間、俺は今まで通り大泉に通いながら来るべき戦乱に備えて新兵器の開発を指揮している。

現在、鉄砲の生産は軌道に乗ったとはいえ1年で50丁が限度でつい最近になってようやく鉄砲隊の全員に行き渡った程度で他にも戦況を替えられるような武器が必要だからだ。

そして出来たのが、訓練をしなくても簡単に矢を放てるクロスボウ、射程は短いが使い方さえ教えれば訓練時間が少なくても矢を放てる。

連射が利かないのが難点だが使い方によっては役立つはずだ。

それに加え、連弩、攻城戦でも使える大型の弩と投石器、そして越後から取り寄せた臭水、言うなれば原油を藁などを入れた専用の壺に詰めた火炎瓶もどき名付けて滑液包炎!、投石機用と足軽用に大小の2種類を作った。

ただ残念なのが試したところ、ガソリン程一気に燃え広がらずジワジワと燃え広がる感じなので攻城では有用だけど野戦ではあまり効果は期待でき無さそうな気がする。

原油を精製出来れば良いんだけど、単独釜を用いた回分蒸留で、いちいち温度をみながら留出油を順次分離するという原始的な方法ぐらいしか実行できず、危険度と手間、臭水の仕入れ量を考慮して諦めた。

駿河にある相良油田を手に入れられれば製油しなくても良いんだけど、流石に現時点で駿河まで手に入れるのは不可能なうえ、まだ発見されていない油田の存在を明らかにするのはデメリットでしかないし。

そして堆肥作りを隠れ蓑にし行っていた硝石丘法も軌道に乗って硝石をそれなりに安定して確保出来るようになった。

火薬兵器は確実に役に立つはずだ。


ただ兵の訓練も順調だし、新兵の集まりも良いが武具の作成が追い付いていない。

農機具の生産や鉄砲生産、新兵器生産に人を割き過ぎた感じだ。

とりあえず新兵には簡易的な装備を用意して基礎訓練を優先しよう。

合戦に連れてくにしても訓練途中だと大した戦力にならないだろうし…。

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