古河公方の伊豆攻め

武蔵関にある富士見池から水を汲み上げて大泉まで水路を引く計画は冬の農閑期に人が多く集まった為、かなり順調に進んでいる。


木を切り、伐根し水路を掘る。

木を切り倒すのと水路を掘るのは簡単なんだけど、伐根するのに意外と手間取っているが田植えが始まる頃にはほぼ水路は大泉まで到達した。

後は水車の設置と大型手押しポンプの設置、台地の上まで水を送るパイプを設置すれば水が台地を流れるはずではあるが、田植えが近い事もあり人を集める事も出来ず今は専業兵士と奴隷として売られて来た人を動員して水路周辺の木々を伐採しまくっている。


伐採した木は適当な大きさの丸太にして乾燥させれば建築用木材になるし、細い部分も乾燥させれば薪になるので乾燥場を作ってそこに保管をしている。

暫くの間は農民を雇って開拓する事が出来ないから開拓の進みが遅いけど夏近くなれば農民にも余裕が出来て来るからそれまでは現状で我慢しよう。

本当は綿花や麦、蕎麦、菜の花の栽培を大々的に始めたかったんだけどまだ切り株だらけだから恐らく来年からの栽培になると思う。


そう思いながら田植えの季節を迎えた頃、風魔衆の情報収集組から古河公方こと足利成氏が小山氏・結城氏と共に兵を挙げ、伊豆へ向けてまもなく進軍を開始するとの情報が入って来た。


兵を挙げる前にはどうしても武具や兵糧などの流れが活発になるので間者を送り込んでいなくても商人達からの情報で大体事前情報が入るが、どこを攻めるかなどまでは分からない為、敵対する勢力は間者を放ち進軍目標を調べさせるのだが上杉顕定も上杉政真も何処を攻める気なのか計りかねているような状況らしい。


風魔衆には足利成氏軍の動向を逐一知らせるように指示を出した後、俺は父である泰経に成氏の動向を伝え豊嶋領にある城の防備と領民の安全を図るように伝える。

流石に古河から伊豆まで攻め込むなどとと笑っていたが、風魔衆が手に入れた確かな情報であり、伊豆に向かうには武蔵を通過する為、豊嶋領が蹂躙され今年の収穫高が大幅に落ちると言うと、やっと事の重大さに気が付いたのか、上杉顕定も上杉政真を始め一門衆と各城へ伝令を走らせた。


成氏が伊豆を攻めるのは史実どおりなので、ネットで何処を通るか調べたが、結果としては三島で堀越公方である足利政知に敗れて撤退するとはあるけど、進軍ルートと撤退ルートは分からなかった。

ただ地図上の直線で古河から伊豆に向かうとなると豊嶋家の所領を通過することになる。

まあ実際は直線の道がないから豊嶋領を掠める感じにはなるんだろうけど、成氏と戦うのか、やり過ごすのかの二択を迫られる。


泰経は陣触れを出し、各城へ兵を入れ、合戦になれば石神井城から本隊がいつでも援軍に行ける状態でやり過ごす事を選んだようだが、俺もその考えは正しいと思う。

なんせ成氏の軍勢は15000人を超える大軍で、豊嶋軍が動員できる兵を大幅に上回っているので戦っても時間稼ぎにはなるが損害が多くなるうえ得る物が少ない、だったら領内を荒されない限りは手を出さないに限るからだ。

なにより関東管領である上杉顕定からの要請は来ていない以上、どうするかの裁量は豊嶋家の当主に任されていると言って良いという事だ。


その後、風魔衆の報告で川越方面から所沢に抜け府中方面を進むとの事だったので一安心したものの、通過するルート周辺を領する国人衆は城に籠り成氏を素通りさせるようだった。


まあ15000人近い兵で進軍してくる以上、誰かが旗頭になって国人衆を纏めて相応の兵を集めないと歯が立たないし、当然と言えば当然の結果だ。


成氏は無人の野を通るがごとく武蔵を通過し相模に入る。

当然のごとく進軍ルートの近くにある村などで略奪暴行がおこなわれていたが、国人衆が兵を出す事は無かった。

そして相模に入った成氏は厚木を通過し小田原に迫る。

扇谷上杉家よりの援軍も無い為、小田原城主大森氏頼は籠城を選択した事で成氏は小田原を攻めず城下で略奪をした後、放火しそのまま箱根を越えて三島で足利政知の軍勢と合戦になった。


休息を取りながら進軍して来たとはいえ古河からの強行軍のうえ抵抗もなく伊豆まで来たことで兵達も戦勝気分になっていたのか、今川家から援軍を得た足利政知の軍勢とぶつかり一進一退の激戦を数日繰り広げたものの、成氏軍は合戦が始まって5日目の夜に箱根を越えて小田原方面に撤退をした。


風魔衆の話では成氏が撤退する前夜には既に撤退を考えていたようで夜陰に紛れて兵糧などの小荷駄を後方に下げスムーズに撤退が出来るように準備をしていたらしい。


一進一退で勝敗が付いていない状態にもかかわらず撤退した理由はどうやら関東管領の軍が成氏の本拠地である古河に向けて進軍を開始した為だった。


俺としては、古河を攻めるより伊豆へ兵を向けて挟撃したほうが成氏を討ち取るチャンスだと思うんだが、どうやら上杉顕定は本拠地を攻め落として成氏を根無し草にする方を選んだらしい。

ただ成氏に味方する国人衆の抵抗が激しいうえ、農繁期であることもあり上杉軍を率いる俺の爺こと関東管領家の家宰である長尾景信は古河まで到達する事も出来ず戦線が膠着した状態となったらしい。


ただ古河方面に撤退する成氏には兵を差し向けていない為、戦線が膠着状態のうちに成氏は大した障害も無く伊豆へ向かった道を戻る形で古河へもどったとの事だった。


それにしても何でここで相模、武蔵の国人衆に動員令を掛けないかな~。

確かに農繁期ではあるけど折角古河を攻め落とすチャンスなのに、上杉軍のみの為、景信は古河を攻め落とすだけの余力が無い為に撤退をしてしまったし。


ネット情報だと伊豆で敗戦したってなってるけど、伊豆で敗戦した訳ではなく、本拠地が攻められそうだから撤退したと言うのが事実だったとは…。


でも足利成氏と言う人物、会った事ないけどかなり勢いを重視する人物みたいだ。

まさか古河から一気に伊豆まで攻め込むなんて誰も想像つかないだろうし、一歩間違ったら挟撃されて大打撃どころか自身の命すら危うかっただろうに。


機会があれば一度ぐらいは会ってみたいな。

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