スピンオフ 石神先生

ある日売店で何を買おうか迷っているナースを見かけた。


その時は気にしなかったが翌日から自分の思考とは裏腹に彼女を見ると自然と目で追ってしまう自分がいた。


一度も目が合った事が無いので当の本人はこちらが見ている事に気付いていないのだろうが。


病院内でオペの時間以外は勝手に彼女が頭の中に出てきてしまう。


困った・・・これはなんとかしなければ。


といっても広い院内で中々一緒に働く機会は訪れず刻々と過ぎてしまう毎日。どうしたものかと考えていたある朝の事だった。


(今日一番ラッキーなのは・・・○○座のアナタ!!!)


テレビで普段は見向きもしない占いコーナーをたまたま見た。


ほぅ・・・。


(○○座のアナタにとって今日は一年で一番ラッキーな日になるでしょう!特に恋愛運が抜群となっていますので気になる人がいる方は積極的にアピールしましょう!)


積極的にアピール、か・・・。


(そんなアナタの今日のラッキーアイテムはフラミンゴ柄の靴下とスイトピーです!!!)


この時点では特にどう動こうか考えて無かった。


その気になってきたのは売店の店員がレジの近くにスイトピーの種を置いていたからだ。パッケージのスイトピーの文字を見てこれは何か自分にチャンスが向いてきている、そう感じた。


このような直感にはかなり自信がある。


『その種・・・今日まくのか?』


『そうだね、もう少し経ったら花壇で作業始めるところだよ!手伝ってくれるのかい?』


『いや、遠慮しておく・・・。』


陰で素早く昼食を済ませ、売店の店員が花壇に移動するのを待った。もし彼女が現れて少しでも話す事が出来たら連絡先を渡さないと!そう思いメモに記入して壁に隠れて何もせずに立ち尽くしていた。


・・・・・来た!


予感通り彼女は花壇へとやってきた。


売店の店員と何か話しているようだ。その後すぐに店員がどこかに立ち去ったので俺はすぐに花壇へと足を進めた。


外科医だろうとこういう場合は流石に少し心臓が痛いな・・・。


『何してるんだ?』


突然後ろから話しかけてられて彼女は少し面食らっているようにも見えた。


『ス、スイトピーの種をまいてました。』


『そうか。』


『・・・・・。』


何を話そうか全然考えてなかった。


『では、失礼します。』


彼女が足早に去ろうとしていたのを感じた。


ダメだ・・・逃がさない。


『花が好きなのか?』


『え、いや・・・特にそういうわけでは・・・どちらかというとお花見るよりは甘いものを食べてるほうが好きですかね、なんて、アハハ・・・。』


周りくどい事は自分には向かないのでストレートに誘ってみる。


『じゃあ一緒に美味しい大福を食べに行こう。』


『・・・へ?』


いささか困惑しているように見えたが気にせず続けた。


『・・・嫌なのか?』


『え!嫌とかじゃ・・・ないんですが・・・なんでまた私と・・・?』


なんでって・・・そんなの、決まってるじゃないか・・・とは思ったが花壇の前で話すことでもないか。


『それは・・・おそらく今ここで言うことではないだろう。』


彼女の顔が赤くなったのを見届けた俺はとりあえず気付かせないようにひどく安心し自然と笑みがこぼれた。


ここはあくまでも職場。これ以上できる事は無いだろうと彼女の頭を撫でた。


『あとで連絡する。』


メモを渡しそう伝え終わると足早に手術室へと向かった。今日の午後は一段といいオペが出来そうだ。


なんにしろもやもやしていた日々とは決別出来た訳で普段冷静な俺も興奮せずにはいられなかった。


言葉で伝えるのは今度ゆっくり時間がとれた時にしよう。


きっと待ち合わせ場所がどんなに混んでいても俺ならすぐに彼女を見つけられる。


何せ自然と目に入ってきてしまう、特別な存在なのだから。

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【完結】 選択式小説 ドクター 望月ナナコ @nanako75

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