第30話 エピローグ
それで事後処理であるが――。
ちょっと悪いことだが、ニュムパの幻覚に介入して最小被害で済ませたということにしておいた。
俺の名声がうなぎ上りになった。
ただ、クソ親父がやったことだけはそのままなので、俺の想定通り処刑されることになった。
裁判すらない。
あの場ですべての貴族に刃を向けたのだ、情状酌量の余地なく死刑一択しかなかった。
その前日に王様と俺、あとイコナは拘束されたクソ親父の下へやってきていた。
王様がどうしても話を聞きたいということだった。
メリサさんなどは聞く必要もないでしょうと反対だったが、王様がどうしても聞きたいということだった。
「おや、王様じゃないか。明日処刑になるボクを笑いにでも来たのか?」
クソ親父は牢屋の中でもこんな調子であった。
気絶する前に呟いたように、少しは反省とか後悔をしているとかは思ったのだが、まるきりいつも通りっぽい感じの調子とは恐れいる。
「魔術子爵と呼ばれ、我が国に尽くしてきたそなたが、何故このような凶行に走った」
「言ったじゃないか、インフラントがボクの聖女を奪ったんだ。あんなにも頑張ったのにさぁ」
「そなたの屋敷に行ったぞ。あれは人間の所業ではない。あれは努力などではない。余は貴様を認めない」
メリサさんに注の彼て俺がクソ親父の屋敷に踏み込んだ。
出てきたものは、腐って放置されたらしい女の死体と人体実験の研究ばかりだ。
幾人もの人間に子供を産ませては聖女ではないと殺してきたようで、地下室には悪臭がしみ込んでいた。
あんな屋敷で生活などできるはずもない。
領地の住人も死んで腐っていた。
モンスターがやってきてもおかしくなかったが、あまりにも邪悪すぎてモンスターすら立ち寄らない場所になっていたのは純粋にヤバすぎる。
最後の方には上位者なる神に対する研究で、まさしく邪教の巣と言った感じだった。
邪悪すぎて、俺もドン引きである。
それを全てクソ親父は努力と称しているのだから、完全に狂っているだろう。
本当に努力の方向音痴すぎる。
これで俺のように父親なんか知らんで済ませられたら、楽だったのかもしれないのに難儀なことである。
同情は一切しないけどな。
「なんだよ、王様もボクを認めないのかよ」
「いいや、1点だけ認めてやろう。もうひとりの聖女を見出したことだけはな」
「なにもうれしかないね。偽物ばかりが認められてるし、生きている。インフラントもそのままじゃないか」
俺への侮辱に王様が怒り心頭な表情になっているが、それ真実なんですよね。
「イコナもなんで偽物殺してないんだよ」
「ごめんなさい父上」
「ほら、今殺せよ。それでボクを助けろよ」
「はい、父上」
「させませんよ」
イコナが何かするより、強制無限身体強化が発動している俺の方が速い。
隣に立っている状態なら魔術すら発動させないことが可能だ。
脳天にげんこつ1発からの続けてデコピン連打。
何かしようにも不可能だし、強化されていないイコナの身体能力は同世代の子供以下である。
何かするよりも先にデコピンで意識を揺らしてやれば、魔術も放てない。
遠く離れた場所から戦えとか言われない限り、俺はイコナに負けることはないだろう。
でも、慢心しない。
常にデコピン連打だ。
「ニメア? お父さんはそれ以上やらない方がいいかなーって」
王様が止めてきたが、必要なことだからやめない。
「王様は甘いので。あと誰がお父さんですか」
俺も甘いけどな!
そんな惨状を見て、クソ親父は舌打ちする。
「まったく本物でもこれかよ。インフラントだからだな。ボクの娘を本物にしておけばいいものを。神も駄目だ。どいつもこいつも役に立たない。もう良いよ、好きにしろ」
その言葉でイコナも止まる。
「好きに……? 父上、好きにとは……?」
「役立たずとは会話する気はない。やはりボクが選ばないとね」
「……何か言い残すことはないか」
「ボクは負けてない。死んで神になって、今度こそボクの理想の聖女を作ってやるよ」
完全な負け惜しみだ。
王様もこれには何も言うことはないと理解したのか。
さっさと背を向けてその場を去る。
俺は呆然としているイコナを連れて王様に続いた。
クソ親父の牢屋からは、狂って歪んだ笑い声が響き続けていた。
「やれやれ、ああいう手合いの相手は面倒だ。妄言もあそこまで極まるとはな……」
まあ、あの妄言に聞こえる言葉の大半は、真実なんですよね。
俺が本当にあいつの実子で、本物はインフラントさんの娘さんなのである。
そこの事実は俺以外わからないし、証拠もないので誰も信じない。
その後も特に何事もなく、クソ親父はさくっと首を切られて死んだ。
第2、第3のクソ親父とかが登場しないことを祈るばかりである。
「それで、あのイコナのことですか……」
「わかっている。お披露目をするさ。聖女の力を持っているのは確認したんだな?」
「はい。預言者はきっとあの方が殺したのでしょう」
実際殺しているので嘘ではない。
「まったく、本当に余計なことしかしないな。かつての国1番の魔術師も落ちぶれたな……」
「何かあったのでしょう。それよりも被害者であるあの子については……」
「そう何度も言われなくてもわかっている。聖女だと確認できたのなら相応の扱いをするのが決まりだからな。お父さんとしても、あの子は救いたい!」
うーん、ブレイク。
王様モードは最後まで切らさないで欲しかったな。
ともあれ、イコナをふたり目の聖女としてお披露目した。
預言者はいなかったが、わたしと王様が認めたし、浄化の力もあったので正式にふたりめの聖女になった。
まあ、本当はひとりめの聖女なんだけどね。
言わぬが花というやつである。
民衆は大いに喜んだりしていた。
ふたりの聖女がこの国にできたのは開国以来なかったことだからだ。
なにもない国がこれからよくなる予兆なのだと大いにもてはやされている。
そんなイコナは、命令しなければ日がな何もせずぼーっとしていた。
ご飯も食べないので、いちいち食べろと言ったり、食べさせなければならなかった。
「ほら、イコナ、ごはんを食べなさい」
「わかった、食べる。おかーさん」
どうやら命令をくれる人を親だと認識するのか、俺への呼び方が、おかーさんになってしまった。
俺今生15歳、未婚!
まだそういうこともしてないのに、おかーさんと呼ばれては大変だろう!
「ねえ、そのおかーさんというのやめません?」
「でも、おかーさんはおかーさん」
なぜか、こういうところだけは従ってくれないのでこのまま行くほかない。
まあかわいい子におかーさんとか呼ばれるのは悪い気はしないのでオッケーです。
顔見えないんだけどね!
きっと可愛いと思うから、可愛い子でいいのだ。
顔が見えなければ、可愛いと可愛くないの可能性が同時に存在している。
観測するまでは、可愛いと思えるので良しだ。
「ああ、可愛いな! お父さんのことはお父さんと呼ぶと良いぞ、イコナ!」
「………………」
俺が言わないと挨拶しないようである。
「ほら、イコナ。王陛下にご挨拶なさい」
「王陛下、ごきげんうるわしゅう?」
「間違っているぞ、イコナ。お父さんと呼ぶのだ」
「王陛下」
「おとう……」
「王陛下」
何をしても王陛下としか呼ばれない王様は、めちゃくちゃ落ち込んでいた。
メリサさんは裏で大爆笑していた。
お小遣いに金貨がもらえた。それほど爆笑したらしい。
諸々落ち着いたら俺はイコナに上位者という存在についても聞いてみた。
「よくわからない」
イコナはほとんど何も知らなかった。
フェガロフォスと繋がっているということくらいで、フェガロフォスが何かはわからない。
浄化をしたりすると呪いを持っていくということらしい。
とりあえず、それらについては全て保留するしかなかった。
クソ親父の資料には特に何も載っていなかったし、もうそういうものと思っておくほかない。
そんなことより頭に巨大な穴が開いていて、深淵のゲートクラスに呪いが噴き出している影響で、イコナも感覚的に呪いを操作することができたっていうことの方が重要だ。
俺式の浄化を教えたら、覚えてくれた。
こっちの浄化だけをやってくれと言ったら、従ってくれて俺式浄化しかやらなくなった。
おかげで俺の負担も軽減である。
やったね!
「…………いや、待って?」
良くないんじゃないか? 俺のアドバンテージが失われてないか?
黒点とかいうものがあるおかげで、吸った呪いは暴発せずに穴に吸い込まれて消えるし、上位互換では?
い、いや、気術は俺の方が勝ってるから大丈夫。
「おかーさん、だいじょうぶ?」
「だ、だいじょうぶだいじょうぶ」
魔術撃たれる前に近づいてぶん殴れば勝てる。
俺の方が強い。
強い方が正義。
つまり、俺が正義、オールオーケー。
やはり筋肉。
筋肉は全てを解決する。
とまあ、そんな感じにクソ親父が起こした騒動は、一段落ついたのである。
「やっと落ち着きましたね」
やるべきことが終わった俺は今、ひとりで紅茶を飲んで清々しい気分になっていた。
クソ親父もいなくなり、俺を偽物だと言及できるやつはいなくなった。
これで何の不自由なく生活ができる。
これからは純粋にこの世界を楽しんでみたりなんかしてもいいかもしれない。
それは良い考えに思えた。
「でもしばらくはゆっくり……」
「あ、ちょうどいいですね。予定がないのなら」
などと思っていたら、メリサさんが良い笑顔でやってきた。
俺の自由の時間はどうやらないらしい。
壮絶に帰ってほしかった。
「聖女ニメアも成人しましたし、新しい聖女イコナもあなたと同じように浄化できるので、これで心置きなくヴェルデへ聖女留学できますね」
「はい???」
あれよあれよと話が進み、気がつけばヴェルデ国へ向かう馬車に詰め込まれていた。
どうしてこうなった、責任者は出てこい。
なんで転生してまで学園に通わねばならぬのだ。
責任者はどこか。
俺は切実に、空へ問いかけるのであった。
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