第29話 企みの終わり
俺はプラトリーナの優腕に呑み込まれた。
それで普通なら終わりだろう。
誰だってそう思う。
俺だってそう思うだろう。
クソ親父だってそう思った。
でも、残念。
――まだだ。
「はぁ!?」
俺は生き残っていた。
あり得ない事象にクソ親父が驚愕する。
俺はそのまま最速最短一直線に全力の拳で、その顔面を真正面から殴りつけ、地面へと叩きつける。
右手で殴ってしまったので、痛かったがスッキリする一撃だ。
「なんでだ、プラトリーナの優腕に撫でられただろう、なんで消滅しない!」
「企業秘密です!」
さあ、クソ親父が驚愕している間に間髪入れずに奴の腹に、足を全体重かけて抉りこみ、馬乗りになって殴りづつける。
その間に、答え合わせ。
答えは単純だ。
「でも、2度と使うことはないと思うので、教えてあげましょう! 二被りのソーバーンと同じ手をやらせていただきました!」
ものすごい賭けであったが、呪いを体の表面全部に纏わせて外骨格のような感じにしたのだ。
右腕にプラトリーナの優腕を受けた時、俺は右腕の消滅を覚悟した。
明らかにそんな感じがあったというのに、削れたのは表面だけだった。
内側は妙な感じに残っていた。
それを踏まえてディランとヴェルジネ師匠の戦いを思い出した。
浄化の力は、ディランの外骨格に防がれていた。
もしかして、身体の内側に呪いを循環させていたから表面だけが削れる結果になったのではないか?。
そこで賭けにでたわけだ。
もう2度としない。
下手したら死んでた、マジで死んでた。
もうやりたくない。
だが、賭けに勝った。
クソ親父が放った一撃は、俺の表面の呪いだけを消滅させていった。
こういう力は表面に分厚い呪いの層みたいなのがあると貫通しないっぽいのだ。
「さっさと降参なさい!」
「舐めるなよぉ!」
クソ親父の両手に穴が生じるが、その瞬間に俺も両手に分厚い呪いの層を纏わせる。
そのままクソ親父の両手を合掌!
御仏への祈りが足りていれば、腕は無事であろう。
「がああああ!」
残念、仏様への信心が足りていなかったようだ。
南無南無。
クソ親父の両腕は消滅した。
俺の腕はもちろん無事。
仏様へのお祈りは重要だが、やはり呪いが見えるこの眼が1番のチートだろう。
見えてるものは動かせる理論でなんか動かせたし、色々できるようになったからな。
きっと母親からの遺伝なので、俺を生んでくれた母に感謝である。
そのまま両腕を失ったクソ親父に頭突きをかます。
聖女の頭蓋は何よりも固い。
これテストにでます。
「偽物がァ……なんで、そんなに……」
「偽物が本物に勝てないと誰が決めたんですか?」
偽物は時に、真作を超えるものだ。
「もうあなたの負けです。認めなさい」
「嫌だね、ボクはまだ負けてない」
「ああ、そうですか。ならもうお眠りなさい!」
もう1発頭突きを叩き込む。
聖女の頭突きは、ありがたみの極致である。
オーバーフローした真心は、どんなものでも安眠へ導くこと請負だ。
「ずるいじゃ、ないか……聖女じゃないオマエばかりが認められて……ボクはどうして、認められないんだ……ずるいじゃあないか……がふ……」
聖女頭突きを喰らったクソ親父は完全にノックアウト。
俺の勝利。
最後に立っていた奴が勝ちなのだ。
気絶した方が悪い!
「ああ、もう疲れました。本当にしぶといし、何なんですかもう」
でも、しこたま殴れたからスッキリした。
これで勘弁しておいてやろう。
どうせクソ親父の言葉は誰にも認められないし、彼に褒美を出す奴はいない。
いたとしたら俺が潰す。
せっかく手に入れた聖女を無駄にしたことを心に刻んで処刑されてほしい。
ただ、最後の言葉はきっとクソ親父の本心だったのかもしれない。
周りが認めても、肝心の父親には認められなかった。
ずっと努力しているのに認められないのは、辛いだろうということはわかる。
努力の方向性を滅茶苦茶間違ってるから共感なんてできないけどな!
とりあえず、クソ親父は何もできないように捕縛と、空間魔術で聖女の城の地下牢へぶち込んでおく。
「あとは、この惨状ですね……ニュムパの方は……」
「終わったぞ」
ディランが階下から現れる。
ニュムパを本当に王都の外にぶん投げてくれたらしい。
「そっちも終わったみたいだな」
「ええ、終わりました。何とかですね」
「あいつやべえ奴だったな。あのへんな腕みたいなのとか、よく対処で来たな」
「……腕?」
「ああ、手の穴から出てくる腕」
「……見えてたんですか?」
「? 普通に見えたが?」
そうか、ディランには見えていたのか。
え、滅茶苦茶悔しいんだが?
なんで俺には見えなくてディランに見えるの?
「負けませんからね!」
「お、おう……?」
ともあれ、まずはこのボロボロの城を何とかするか。
「森」
俺は1つの魔術を行使する。
壊されていた城が時間が巻き戻るように元通りになっていく。
森のロガル文字は、時間への想いを文字起ししたもので、ロガル文字の中でも最も貴重なものだという。
物体の時間を操作することが可能で、俺が使えばこの城の破損くらいは全て元通りだ。
人の時間は戻せないので、そこだけは注意が必要だが建物の被害を無くせるのでとても便利な術である。
「おー、すげえな。全部もとどおりかよ」
「とりあえず疲れました。クローネはどこに? お茶をいれてほしいのですけれど」
クローネと言った瞬間、ディランが苦々しく顔をゆがめた。
「何かあったのですか?」
「あいつは……」
「おっまたー! クローネ印のお茶の時間だゾ~?」
ディランが何か言いかけた時、バーンと直ったばかりの扉をあけ放ってお茶セットを持ったクローネが登場した。
ディランがあんぐりと口を開けている。
「お? どうしたディラっち~、まるで幽霊にでも出会ったみたいだゾっぞ~?」
「いや、だっておまえ、死んでだろ、首だけになって」
「え、死?」
え、マジでクローネ死んでたの?
いや、確かにあれだけの騒ぎで戻ってきてないからには何かあったのかもと思っていたが、死んでいた?
しかし、こうして生きているぞ……?
というか何やらクローネの中にある呪いの量が増えていないか……?
死んでいたかはともかくとして、何かがあったのは間違いなさそうだ。
本当に何があったんだ?
「死んでなーいっぞ? クローネちゃんはこうして無事だー。生きてっぞー? きっとディラっちの見間違えか幻覚だなー。ニュムパがいたんだし、そういうこともあんだろー。気落ちすんなー?」
「……まあ、良いか。生きてたんなら何よりだしな。そういうことにしておいてやるよ。あと気落ちなんてしてねえ。また騒がしいのが戻って来たって辟易してるとこだよ」
「おーっと、ディラっちはまーたクローネちゃんの逆鱗を踏んだゾ? 表でろー? ぶん殴ってやっからなー?」
「怖いから退散するわ」
ディランはささっと部屋から退散していった。
「せわしない人ですねぇ」
「だなー。でさー、ニメアっちゃん」
「なんですか?」
「ごめんなー、クローネちゃんなんもできんかった」
何を言うのかと思ったら、そんなことか。
珍しく殊勝な態度が可愛らしい。
「別に構いませんよ」
「それは期待してなかったってことかー? ニメアっちゃんからのクローネちゃんポイント減ってかー?」
「いえ、そんなことはありませんけど? そんなことで落ち込む必要はないということですよ。相手は手練れでしたし、生きているだけでありがたいです」
「……なんも聞かないんだなー、ニメアっちゃんは」
呪いのこととか色々聞きたいことはあるが、本人が話したくないのなら聞かないのがマナーというものだ。
「話してくれるまで待ちますよ。それにクローネがいなくなるとうちの城は終わりですので。これからも頼りにしてますよ」
「……そっかそっかー。ニメアっちゃんは良い子だなー。んじゃ、お茶のんどけー?」
「ええ、いただきます」
クローネお茶を飲む。
美味しいお茶は、一区切りついたことを教えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます