第214話 わたくしとご主人様との子供

「お前……一体何をやった? この俺を騙そうとしたってそうは行かない。 流石に詠唱もなくこんな芸当ができる訳が無かろう。 それにもし詠唱したとしても打撃を与えた所を凍らせるなどという魔術は無い為何か種があるに違いない。 これで今まで変わり種の魔術師として相手を騙して来たのだろうが元Sランクである俺レベルの相手には出会って来なかったのだろう。 残念だが君のペテンもここまでのようだ」


 こんなに分かりやすく実践して実際に魔術を行使して見せたというのに、この方の頭の中はゴリッゴリに凝り固まっているのでは無かろうか?


 自分が知らない未知なる戦法が実際にあったとして『今までの経験ではそのような戦法は無いから何かトリックを使ったに違いない』などと、わたくしならば無知を曝け出すようで恥ずかしすぎて敵どころか知人にすら聞けないのだが、敵はどうやらそうではないらしい。


 そもそも命のやりとりをしている相手に『それはなんだ』聞いてくるあたりきっと馬鹿なのだろうし、せっかく見せてあげた打撃魔術も『そんな魔術は無い』と言い切る始末である。


 救いようが無いとはこの事か。


「あら、このわたくしが扱う打撃魔術を信じないと? そうおっしゃるのですのかしら?」

「だからそう先程から言っている。 いくらブラフで俺を惑わそうとしても無駄だ。 貴様は魔術師どころか魔術も行使できない。 きっと魔術を収めた使い切りの魔術陣か何かで誤魔化している偽物のなんちゃって魔術なのだろ。 もう諦めろ」


 そして何よりも、こいつはわたくしとカイザル様との愛の結晶・・・・に対して言うに事欠いて偽物であると言うではないか。


「あなた? 先程なんとおっしゃいました? わたくしとご主人様との愛の結晶、これは言い換えれば最早わたくしとご主人様との子供と言っても過言ではないこの打撃魔術を、偽物と……そうおっしゃったように聞こえた気がするのですが?」


 なんか後ろから「流石に過言だわ」だとか「いや、子供は流石に引く」などとヤジが聞こえたような気がしたのだが気のせいであろう。


 しかし、気のせいであろうがこの後しっかりと野次を飛ばしてきた事を後悔させると心に誓うのだが、今は目の前のこの剣士をぶっ潰す事が最優先事項である。 


 絶対に『偽物』と口にした事は許さないですわ。


「どう考えても偽物…………は?」


 そして尚も偽物であるとほざく男性にも分かりやすい様に、右手には炎を、左手には雷をその拳に纏わせる。


「では、偽物かどうか今からあなたの身体に直接教えて差し上げますわ。 ええ、それはもうわたくしの気がすむまでたっぷりと」

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