第213話 カイザル様との愛の結晶

「だ、打撃系魔術師……だとっ!? そんな魔術師がいるわけがないだろうっ!! この俺を馬鹿にしているのかっ!? これでも王国の冒険者として Sランクまで上り詰めたんだがそんな魔術師なんか聞いたことがねぇわっ!!」


 それもそうだろう。


 この打撃系魔術というのはカイザル様の『エビワラという不遇なやつがいてな、その拳に炎、氷、雷と属性を持たせて攻撃できる奴がいて、初めこそ威力は全く出ずみんなあいつの事を馬鹿にしていたのだが、技が物理と特殊に分かれ鋼鉄の拳を手に入れたらもう誰もエビワラの事を笑わなくなったんだ』という何気ない日常会話のフレーズからわたくしはヒントを得て自分なりに改良を重ねて自分の物にしていったのだから彼が知らないと言うのも当然であろう。


 そもそもわたくしが奴隷へ落とされた理由が体内の魔力を魔術として放出する事ができず、魔力が元から多いにも関わらず子供でも扱える【火球】どころか【トーチ】の魔術すら行使できなかったからである。


 あの日、お父様にピクニックへ行こうと誘われ、普段怒ってばかりのお父様がわたくしに優しく接してくれて舞い上がっていたわたくしを殴ってやりたいですわね。 


 結局ピクニックなどではなく、わたくしを誘き寄せる為の口実であり、買取にわざわざエルフの村にまで来た奴隷商人へと売り飛ばさす為に突き出す為の口実であったのだ。


 しかしながら、そのお陰で今のわたくしがあるのだとしたら感慨深いものである。


 そして、私はブラックローズの一員としていくらレベルを上げても一向に魔術は行使できない為、半ば諦めていたその時にカイザル様のその話を聞いたのである。


 外に放出する事が出来ないのであれば中で魔術を組み上げて扱えば良いと。


 そこからは文字どり身体がボロボロになるまで試行錯誤の連続で、半端に発動してわたくしの体内で暴発し、傷だらけになった手足を毎日のようにカイザル様に手当てしてもらい、どうにかこうにか形に仕上げて来たわたくしだけの、いや、わたくしとカイザル様との共同作業で作り上げた二人の新しい戦闘方法なのである。


 それはもうわたくしとカイザル様との愛の結晶と言っても過言ではないでしょう。


 まだまだ荒削りなのだがそれでもそこら辺の現役を退き用心棒へと堕ちた元Sランクの冒険者なんかに負ける事などあり得ないと自信を持って言えるくらいには仕上がっている。


 そして、いつかわたくしを捨てた人たちをぶん殴ってやるのだ。


「聞いたことが有ろうが無かろうが、わたくしの攻撃を防いだ剣を見れば明らかなのでは?」


 そう言いながらわたくしは、先ほどわたくしの攻撃を防いだ剣の殴った箇所に氷の塊ができているのを指差す。

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