第174話うずうずしていた

 さすがドラゴンと言ったところか。


 いくら若いと言ってもドラゴンはドラゴンである。


 その膨大な魔力量と硬い鱗に強靭な肉体を駆使して俺の放った魔術の範囲が及ぶ外へと強引に脱出する。


 見くびっていたのはファルールの方ではなくてどうやら俺の方なのかもしれない。


 とは言ってもだから負けるなどというのはあり得ないのだが、むしろあの段階でファルールの方が負けを認めてくれた方が、ファルールにとっては良かったのでは? と思ってしまう。


 そうすれば、無駄にプライドを砕かれる必要も無かっただろうに。


『フンッ! さっきは不意打ちを喰らっただけなんだからねっ!! たまたま上手く行ったくらいで調子に乗らないでよっ! それに、アンタは絶好のチャンスを失ったという事をこれから知る事になるわっ!! いつまでその余裕ぶった態度で入れるか見もねっ!!』


 そしてファルールはその大きな顎を開くと、火球を放ってくる。


 普通の人間、いや、帝国の宮廷魔術師であろうとも一人でこのファルールが放った火球を防げる者はいないだろう。


 それは即ち、この目の前のドラゴンは俺を完璧に殺しに来ているという事でもある。


 なら、こちらとしても手加減は要らないよな? その無駄に大きなプライドを粉々に砕いてドラゴンの尊厳がなくなるまでボコってやろう。


 それに、正直言って俺も戦いたくてうずうずしていたのだ。


 姿こそ何故か悪役キャラなのだが、せっかくゲームで育成したキャラクターの能力を引き継いでいるのだ。


 それら引き継いだ技の数々を使ってみたいと思うのが人間であり、男の子というものである。


「ったく、殺すき満々じゃねぇかよ。 『水魔術段位二:解術』」


 そして俺は無駄に某雨の日は無能大佐の様に『パチン』と指を鳴らして『水魔術段位二:解術』を行使して目の前まで迫って来た火球を打ち消す・・・・事に成功する。


 この解術という水魔術なのだが『ドラゴンファンタジーナイト~愛のラビリンス~』において水魔術の一時代を築いたぶっ壊れ魔術であり、結果公式大会では使用禁止となった魔術である。


 水魔術と言えば解術と呼ばれるほど長い間愛され続け、第七世代までは解術以外の術を弱体化する事で調整してきたのだが、第八世代からの新規魔術の弱体化に伴いさすがに強すぎると公式大会での使用禁止にされた魔術でもある。


 そして第八世代からは下位互換である『水魔術段位三:削除』が加えられた。


 ちなみにこの解術の効果なのだが『対象の魔術を一つ無効化にする』という効果である。


 そのことからも先ほどのドラゴンが放った火球が魔術である事がわかる。


 ここが火炎袋を持ち、実際に炎を吐くドラゴノイドと、喉を鳴らして詠唱・・・・・・・・し炎魔術を行使する、見た目以外でのドラゴノイドとドラゴンの大きな違いでもある。

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