第106話 甘い世界ではない

 うむ。 実にいい返事である。


 むしろ逆にいい返事すぎて若干怖いのだが……これに関しては考えたところで仕方ないので考えないようにする。


 下手な考え休むに似たりっていう言葉もあるし、何なら藪蛇になり兼ねないしな……彼女達が楽しそうならばそれで良いではないか。


「ね、寝るとはどういう事かしら? それともお互いに勝つように動かなければならないという内容の契約であるにも関わらず模擬戦中に眠るなんて、契約違反によりペナルティーが発生する事を忘れているのかしら?」

「いや、カレンドールさん如き俺の奴隷達で十分だって言ってるんだよ。 断言する。 カレンドールさんブリジットにすらまず勝てない」


 そして俺が今から眠ると言うと、カレンドールさんが怒りに満ちた表情で俺を睨んでくるとともに『逃げるのか?』という表情で突っかかってくるので、『お前如きは俺の奴隷ですら相手にならない』と返してやる。


 そう返されたカレンドールさんは侮辱されたと勘違いしたのか、みるみる顔が真っ赤になっており、木刀を握っている手は力が入りすぎて少しだけ震えているのが見て分かる。


 まぁ、これが侮辱であるのか、ただ単に事実を述べただけなのかは説明するよりも、これから実際に戦ってみればすぐに分かるだろう。


 格闘ゲームですら一F、二Fという時間差で勝敗が決まるのである。


 魔術を無詠唱できない時点で数秒、最悪数十秒という時間を無駄にするような実力では、それが例え魔術ではなく木刀を攻撃手段とした模擬戦であったとしても相手にすらならない。


 日本においても銃がない時代、主流になり始めた時代、銃が進歩した時代、そのどれもにおいて戦法は全然異なるのである。

 

 俺からすればそれだけ見ても銃がない時代の武器と戦法で現代の銃とそれに見合った戦法を使う相手に戦いを挑むくらい無謀であると考えているし、実際にそうだろう。


 詠唱の有無と戦法だけでこれ程差があるにも関わらず、こいつらのレベルは俺が教えたダンジョンのせいで全員軽く三桁は超えているのである。


 この世界の平均的なレベルなのだが、上級者ですら四十前後のこの世界でいくら百年に一人の天才と言われるようなカレンドールさんと言えども、ただの学生如きが倒せるような甘い世界ではないのである。


「それじゃぁ、ブリさん、ガレさん、やっておしまいなさいっ!!」

「かしこまりましたご主人様っ!!」

「ご主人様はこの僕に任せて寝ててくださいっ!!」

「じゃ、ある程度切りが良いところまで遊んであげて、相手が満足したら適当に倒してくれ。 俺は邪魔にならないように端の方で仮眠を取っているから終わったら起こしてくれ」


 そして俺はどこぞの御老公のようなセリフをいうと壁端にもたれながら座り、仮眠を取り始めるのであった。

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