第62話私は今恋をしていた
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私は今恋をしていた。
それは、あの日私を拉致しようとした賊達をたった一人で倒して助け出してくれた黒い仮面の男性である。
黒い仮面の男性は名前を告げずにその場から立ち去って行ったのだが、私にはその男性が誰なのかなんとなく分かっていた。
あの場所にいた男性はクロード殿下と元婚約者であるカイザル様の二人である。
そうなって来ると、わざわざ私を助け出してくれるのは必然的にクロード殿下となる。
カイザル様が婚約破棄をした私なんかを助け出すはずが無い。
そもそも、他人が困っているからと手を差し出すような人物ではない事は痛い程に理解している。
そう自分なりに黒い仮面の男性の正体を推測し、それと同時に私の胸の中には小さな恋心が芽生えていた。
しかし私の家は男爵家でクロード殿下はこの国の正真正銘グラディアス帝国の皇太子様で、皇位継承権は第二位である。
そんな彼に恋心が叶わない事など分かり切っているのだが、それでも恋心を抱く事は私の自由だ。
誰にもこの恋心は奪う事は出来ないから。
しかしながら、ここ最近クロード殿下の様子がおかしくなっていた。
普段では凛として優しく、常に堂々としておられたのだが、今のクロード殿下はどこか落ち着きが無く余裕が無い雰囲気を醸し出していた。
そして、いつ破裂するか分からない風船のようでもあった。
彼がこうなってしまった理由は分かっているし、その理由が私の胸を突き刺して来る。
クロード殿下は、私がクロード殿下を好きなようにきっとブリジット様の事を好きなのだろう。
そして、そのブリジット様は人が変わってしまったように今はカイザル様にベッタリで、自らカイザル様の奴隷になる程である。
はっきり言って私からしてみればあのカイザル様のどこが良いのかなんて全く、これっぽっちも分からないのですけれども、蓼食う虫も好き好きとも言いますし、人の好みや性癖などそれこそ人それぞれであろう。
しかしながらブリジット様の事を好きなクロード殿下はそう割り切る事などできよう筈もなく、今のような雰囲気に変わってしまったのである。
そんなクロード殿下を見て私がクロード殿下の心を癒やしてあげる事が出来るのならばと、常にクロード殿下の側にいるように意識していた。
もしかしたらクロード殿下が私の事を見てくれるかもと、あわよくばと思う醜い気持ちがなか無かったと言えば嘘になるのだが、それでも私は端ないからという理由でやらないという選択肢は無かった。
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