第47話君を助けるのが遅くなった
そして俺達は集まった野次馬達で出来た輪の中心で決闘をすることとなった。
その光景をスフィアは心配そうな表情でクロード殿下を見つめているのに対して、先ほどから何も喋らないブリジットからは怒りが滲み出ているのが、良く良く見れば感じ取れる事が出来る。
「では、このコインが地面に落ちた時が開始の合図で問題ないな?」
「それは問題ないのだが、もし俺が勝った場合は何を差し出すつもりですか?」
「金貨十枚でどうだ?」
ビキビキビキ
おっと、クロード殿下の言葉を聞いたブリジットの額に無数の青筋が浮き出ているのが見える。
そりゃ先ほどの返答は『お前の値段は金貨十枚だ』と言われたようなものであるし、俺だってそんな事を言われたら腹が立つ。
しかしそれを言われたのは忠誠を誓う俺の為ならば躊躇いもせず自分の親の足を切り落としたあのブリジットである。
今この状況だけでもかなり我慢しているであろうし、いつ爆発してもおかしくない、というか滲み出る殺気がいよいよヤバくなってきているのでブリジットが皇族殺しになってしまう前に決闘を始めた方がよさそうである。
「……」
「何だ、その目は?」
「いえ、何も。 では、決闘を開始しましょう」
「良かろう。 せいぜい足掻くと良い」
そしてクロード殿下の指で真上へと弾かれたコインが地面へと落ち、固い金属音が俺の耳に聞こえたその瞬間──
「参りました」
──俺は両手を挙げて降参する。
「どういう事だ?」
「どうもこうもございません。 俺は皇族に対して敵対している訳ではないので、たとえ決闘と言えどもクロード殿下に傷を与えてしまう、ましては敗北させてしまうのは俺の思惑に反します」
「……カイザル、貴様はまさか俺に攻撃を当てれるどころか勝てるとでも思っているのか? 万年ドベの貴様が」
「いえ、しかしながら勝負は時の運、何が起こるか分かりません故」
そう言ってんだよ、と心の中で呟きながらクロード殿下の挑発をひらりと躱す。
「それよりも、俺は負けましたので、ブリジットの隷属解放でよろしかったですね?」
「ああ。 早くしろ」
そして俺はブリジットを呼び、隷属関係を解放させる。
その瞬間周囲は歓声にと、俺に対する罵声に包まれ、クロード殿下は悪の手下からヒロインを救い出した勇者の様に称える声が聞こえて来る。
「ごめん、ブリジット。 君を助けるのが遅くなった」
「……」
「カイザルに隷属された期間、きっと君は悪夢を見ていただけなんだ。 嫌な事は全て忘れてしまえばいいし、俺も君がどんな仕打ちを受けていたは聞かないと約束しよう」
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