第33話歓喜の涙
そしてこんな奴らと一緒に食事を取りたくないのはこちらも同じなため早々に登校準備を終えると家を出て奴隷達を匿っている森の奥へと向かう。
「「「お待ちしておりました、我らが主様」」」
今の俺は馬よりも早く移動する事が出来るのだが、その事がバレてしまっては俺の家族やその他俺を敵視しているであろう奴らに有らぬ警戒心を与えてしまうことになる為、人に見られないように注意しつつ移動する。
まさか今朝実家にいた俺が馬車で小一時間離れた場所にいる等とは奴らも思わないだろう。
「その挨拶、どうにかならないのか?」
そして俺は、俺の拠点(仮)に向かうと隷属した者たちが横一列に並び頭を下げ、出迎えて来る。
出迎える時はそうしろと命令などした記憶も無いのだが、回を重ねるごとにヤクザかよと言いたくなるような光景へとグレードアップしていき、しかしながら命令したわけではないので彼女たちがやりたいようにやらせてあげたいと今まで決して突っ込むことはしなかったのだが、ついに今日思わず突っ込んでしまった。
「我らの命を救ってくださっただけではなく、理不尽な現実に立ち向かう力を我らに授けて頂いたのです。これでもまだ納得いかないのですが、今できる最大限のおもてなしと、感謝の意を込めてお出向えをさせて頂いております。 ご主人様へ一生かかっても返しきれない程の御恩をこの感謝をお伝えする機会となると自ずと、今のところお出迎えの時くらいに限られてきます。 奴隷ごときがご主人様に異を唱えるのですから私の命と引き換えに、どうか我らの気持ちをお伝えすることが出来る機会をお残しして頂きたく思います」
「ちょ、待てっ! 分かったから死ぬなんて言うなっ!! それと別に意見する度に死なれても困るし、むしろ逆に俺が間違っていると思った事はどんどん指摘して良いからっ!!」
「あぁ……我がご主人様の慈悲深きお言葉、私は今感動でいっぱいでございますっ!!」
どうしてこうなったのだろう。
最近こんな事ばっかりな気がする。
「そもそもご主人様のお考えに間違いなど有ろうはずがございませんっ! それでも私の失態を薄く見せる為に自らも間違った考えをすると言い私ごときを庇うご主人様っ!! あぁ、ご主人様っ! 少し前までは生まれてこなければ良かったと、自殺すら考えていた私は今、生まれてきて良かったとひしひしと感じておりますっ!!」
「そ、それは良かったな」
「はいっ!!」
若干、いやかなり引きつつ俺は今すぐにでもこの場から立ち去ろうとしたその時、周囲は歓喜の涙を流している野次馬たちで溢れていた。
その光景に心の底から恐怖してしまうのは致し方無いだろう。
人間、理解し難い光景を目の当たりにすると皆少なからず恐怖してしまうものだ。
だから俺が恐怖してしまう事は致し方無い事なのだ。
しかしながら俺の横で「うんうん分かります」と呟いているブリジットとメイドのメリッサは後でしっかりと言い聞かせようと誓うのであった。
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