第28話 ベタ惚れじゃねぇかよ

 ◆


 理科委員である俺は昼休みは理科委員の仕事で次の授業で使う道具をクラスの人数分揃える手伝いをしている時、お母さんが人気のない方向へ顔を真っ赤にして走り去っていく姿が目に入ったので思わず俺は追いかけてしまった。


 あの表情から教室で何かあったのだろうという予想と、もし俺がここで彼女の助けになればもしかしたら俺にもチャンスが周って来るのかもしれないという邪な感情により、気が付いたら俺はお母さんの後を追いかけてしまっていた。


 我ながら気持ちが悪いとは思うのだが、この感情の止め方を知っている人がいるのならば教えて欲しい。


 それに、例え邪であろうとも彼女を手に入れる事ができるチャンスであり、卑怯な手段でも既に彼氏がいるにも関わらず下心ありきで声をかける訳ではないのだ。


 むしろ相手に好きな異性がいる状態でならば今ここで以後かなければ俺は一生彼女にとって『良きクラスメイト』の位置関係から変わる事はないとう事だけははっきりと理解できる。


 泥臭くてもできる正攻法は全てやるべきだし、恥かしいあとかダサいだとかいう理由で行動に移さず、結果として彼女が顔も名前も知らない異性に取られてしまったら間違いなく俺は後悔するだろう事は分かりきっている。


「それで声をかけたらお母さんの好きな相手を語る幸せそうな表情を見て落ち込んだと」

「うるせぇ。 それにまだ惚気られてねぇわ……」


 惚気られてないけど、彼女のあんな表情を見たのは初めてであったし、そしてその表情をさせたのが俺ではなくて顔も名前も知らない男性であるという事が俺の心を締め付けて来る。


「ベタ惚れじゃねぇかよ」

「うるせぇなっ」


 そして、今現在ダメージを負っている俺に高井哲治がうざ絡みしてくるではないか。


 だが、何だかんだでコイツと絡んでいると少しばかりは気が晴れて来るのでありがたいと言えば有難いのだが、有難いと思う割合よりもウザいと思う割合の方が大きいので後で、こいつが同じように恋愛事で悩んでいる時は同じように感謝のウザ絡みをしてやろうと心に使う。


「お前なら別におかあさんじゃなくても他に女性を選び放題なんじゃないのか? 傷が浅い内に他の女性に恋をしてみるのも良いんでは? ほら、良く星の数ほど女性はいるって言うじゃないかよ」

「お前それ、俺が振られる前提で話しているだろ」

「いや、まぁそうなんだが、休み時間に見たお母さんの様子だと、お前の入り込む余地なんか全く無いというか、他の異性がジャガイモに見えていると言われてもおかしくないくらいにお熱だったぜ?」

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