第23話 恋なのかも知れない
しかし、まさか私がお父さん以外の人に手料理を振る舞う日が来るなんて思いもよらなかった。
コレは現実であると分かっていても、不意に今この瞬間が全て夢ではないかと不安になる。
だからこそ一秒でも早く帰って今この瞬間が夢ではないと、私は安心したいのである。
あぁ、こういう気持ちが恋なのかも知れない。
不安だけど、それでもこの不安な時間ですら幸せに感じてしまう不思議な感覚である。
そして、新谷さんも私と同じ気持ちなら良いなぁ、と思う。
そんな事を考えながら私は帰路につき、自分の部屋へと帰る。
「た、ただいま戻りました。」
「お帰りなさい。 何か手伝おうか?」
「それは当初の約束が違うのでダメです。 今日はとなしく料理を作られて、それを食べるのです」
「分かった。 それでも何か手伝って欲しいことがあれば何でも言ってくれ」
「その気持ちだけ受け取っておきます。 ありがとう」
やはりというか何おいうか当初予想していた通り新谷さんは手伝うと言って来たので感謝の言葉を告げつつそれをやんわりと断る。
確かに、新谷さんと一緒に料理するのはそれはそれで魅力的な提案でかなり後ろ髪を引かれてしまったのは事実である。
事実ではあるのだが、それよりもやはり、初めて新谷さんに食べてもらう料理は全て私が手がけた料理が良いと思ったのだ。
それは我儘かも知れなし、もったいない事をしたなとも思うのだけれども、初めては一回しかないのである。
新谷さんとの初めての共同作業はいつでもできる。
……派、初めて共同作業…………待ち遠しい、じゃなくてっ、妄想に耽っているんじゃなくて今は生姜焼きに集中しなきゃ。
最高の生姜焼きを新谷さんに食べさせてやるのよ、私っ!
妄想はその後でも遅くはない。
そして私は新谷さんの事を思いながら生姜焼作りを手がけていく。
工程はさほど多くはなく、備え付けのキャベツを千切りにして玉ねぎを切り豚肉と炒め、某企業が開発した生姜焼きのタレで味付けをしていくだけだ。
ご飯は既に新谷さんが炊いてある。
ついでにお味噌汁も作って今日の晩御飯は完成だ。
しかし、誰かを思って作る料理がこれほどまで幸せな時間であるとは思いもよらなかった。
いや、これは料理だから幸せなのではない。
誰かの事を思って何かをすることが幸せなのだ。
もしかしたら、これが巷でいう頭がお花畑という状況なのかも知れないのだが、それも悪くないと私は思う。
「はい、そろそろできますからテーブルを出して食器を並べてもらっても良いですか?」
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