第20話 胸に芽生えた初めて感じる感情
好きな異性と言われてもイマイチピンと来ない。
綺麗だとか可愛いとは思うし、男性が好きだというわけでもないので時が来たらその内出来るのだろうと思っているのだが、高校生にもなると今まで以上に好いた惚れたという会話も増えて地味に疎外感を感じてしまう事も多くなった。
もし俺が好きになるのだったらどの様な人だろうか。
そんな事を考えながら過ごしていたら、気がつくと既に放課後になっていた。
「すまん、親に見せるプリント教室に忘れて来たわ。 俺は良いから先に帰っててくれ」
「おけまる」
「おけおけ」
しかし、そんな事を思いながら過ごしているとどこか抜けてしまう事もあるわけで、忘れたプリントを教室に取りに帰る。
「あったあった」
「あれ? まだ帰ってなかったの?」
その時、委員の仕事から帰って来たであろうお母さんもとい朝霧さんに声をかけられる。
「いや、今日配られたプリントを忘れてた事を思い出してな」
「あー、あれね。私は今両親が家にいないから家に帰ったら先生に直接電話する様に言わないといけないんだ。 私もその事忘れないようにしなきゃね」
そう言いながらはにかむ朝霧さんはとても可愛いらしく、夕陽色に染まった教室に吹奏楽と運動部の掛け声が聞こえて来るこの瞬間が俺には幻想的に映っていた。
「好きだ」
「ん? なんか言った?」
「い、いや何でもないっ! お、俺そう言えば用事あったの思い出したっ! じゃ、じゃあなっ!!」
心臓は壊れたように激しく動き、顔は風をひいたように熱くてたまらない。
何よりあの瞬間俺は朝霧さんを抱きしめたいと強く思ってしまって。
そして、無意識の俺の口から出た『好き』という言葉。
無意識だからこそ余計にタチが悪い。
「あぁああぁーーーもうっ!!」
それはまるで予期せず吹き抜けた突風のように、前触れも無く突然胸に芽生えた初めて感じる感情をどう処理すれば良いのか分からず、俺は溢れ出して来そうな感情を叫ぶ事で発散する。
コレでは友達である高井の事を笑え無いではないか。
「寧ろ、俺の方がだせぇ……」
そして、俺は高井を思い出すと同時にある事も一緒に思い出し、頭を抱えて歩道の真ん中でしゃがみ込む。
きっと周りの通行人は奇異な目で俺の事を見ているだろう。
それでも、この胸のズキリとした痛みではどうしようもないと俺は思う。
『お母さんは他に好きな異性がいる』
ただ、それだけの事が、ここまで俺の胸を痛めつけるとは思いもよらなかった。
そして、朝霧さんのあの反応から見て、本人は否定しているが間違いなく好きな異性がいるのだろう。
「ちくしょう……よりにもよって、他に好きな異性がいる相手を好きになるかね……」
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