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でも、とニアが言った。
「もしサリーがその
「そうじゃないのよニア。それがね、絶対サリーが示顕王だと言いきれない部分もあるの」
星を読むと、示顕王の誕生は四年後、そしてその五年後に神秘王が生まれると出ているのですって。
「神秘王?」
思わずニアが聞き直す。
「神秘王なんて聞いた事がないわ」
「うん、私も初めて聞いた」
マリが続ける。
もともと示顕王と神秘王は同じものだったらしいわ。それがいつの間にか別々に認識されるようになった。
『総てを
「でもね、マリ。星は示顕王が生まれるのは四年後だと言っているのでしょう? だったらサリーは違うのではないの?」
「示顕王は四年後に生まれるはずなのに、サリーが『剣』を空宙から出してしまったの」
再びマリの瞳に涙が溢れる。
「それに、もし示顕王でないのなら、サリーは五年しか生きられない」
号泣するマリの背をニアが抱きしめる。
「大丈夫、サリーはきっと示顕王なのだわ」
だって剣を出したのでしょう?
自分でも言っていることが一貫しないと思いながらニアはそう言わずにいられない。
「判らない、判らないのよ」
魔女も魔導士も、誰にも判らないの。サリー本人にも判らない。時を待つしかないの。
「四年後に、何が起こるのか。星が示す示顕王の誕生が何を示すのか、星見の魔導士ですら読み取れない。その時にならないとはっきりしないらしいの」
星が示すのは、サリーのさらなる覚醒ではないか、と言う人もいるの。南の魔女様はそうおっしゃった。でも、北の魔女様と東の魔女様は別の人が真の示顕王で、サリーはダミーだと言うの。真の示顕王を隠すための。
「そうだわ、サリーは? サリーはどうしているの? 学校にはいないようなの」
ニアがサリーの不在を思い出す。
「サリーは魔導士ギルドからご両親のもとに帰ったわ。そうよ、ニア。私、サリーと結婚するの」
いろいろなことがありすぎて、何から話していいか判らない。
「少なくともサリーは、今は示顕王ではない、あるいは覚醒しきっていない。それだけは確かなことらしいわ」
示顕王は自ら名乗るらしいの。それが示顕王の力を示す方法らしいわ。
「魔女や魔導士が自分の身分と名を明示して、術を体現するように?」
ニアが問う。
「そうよ、その通りよ。魔女も魔導士も決して別人を名乗れない。示顕王も神秘王もその辺りは同じらしいわ」
「それよりも、結婚が決まったってそんな大事なことを、どうしてさらりと流してしまうの?」
ニアの目からも涙が溢れてくる。
「マリはサリーと結婚して本当に幸せになれるの?」
「ごめんなさいニア、あなたに心配を掛けたいわけじゃないのに。サリーと結婚できるのは、心から嬉しいのよ」
だけど、不安で不安で仕方ないの。学校に帰ってきてニアの顔を見た途端、その不安が爆発して、だから私泣いてばかり。
「でもね、ギルドの拠点にいる間、私、一度も泣いたりしていないのよ」
サリーが必ずキミのことは僕が守る、と言ってくれたの。この時ばかりはマリの泣き濡れた頬も赤みが差し、瞳が幸せな色を見せた。
「そうよ、私、やっと自分が何で泣いているのかが判ったわ」
マリが涙を拭いながら言う。
「サリーが傍にいないからよ。無事に帰ってくれるのか、それが判らないから不安で泣いているんだわ」
「可愛いマリ、大丈夫、あなたのサリーがあなたを放っておくわけないじゃないの」
私、知っているのよ、とニアが言う。どれほどサリーがあなたを思い、あなたを求め、愛しているかを……
初めてマリの声を聞いた時、初めてマリの姿を見た時、初めてマリの瞳を見詰め、僕を見詰め返してくれた時、僕がどれほど時めいた事か、ニアには想像できるかい? この人の傍にいられるならば、ほかには何もいらないと思った。そしてマリを知れば知るほどその思いは強くなり、僕の中でマリは僕の一部になっていったんだ。
サリーは私にそう言ったわ。男の人が自分の恋人をそんなふうに言うのを初めて聞いた。そしてマリは幸せだと思った。私はまだ、誰にもそこまでの思いを貰ったことがない。
「だから大丈夫。サリーは必ず戻って来る。だいたい戻ってこない理由がない」
「そうね、ニア、サリーのことは信じているの。でも、ギルドは私たちの結婚を認められないと最初は言ったの」
それをサリーが覆させた。結婚が許されないのなら、マリは西の魔女になることを拒否するだろう、と。
「ギルドの決定を誰も拒否などできないわ。それを拒否すると、サリーが言いきったの」
「ちょっと待ってよ」
ニアが慌てる。
「それって、マリが死んでしまうと言ったのと同じ事じゃ?」
「そうよ。そして私も判ったの。サリーがいなければ、私は死んでしまうと。そして私がいなければサリーも生きていけないと」
マリはまっすぐ前を見つめ、それからニアに向き合った。
「そうなのよ、私とサリーは一緒になれなければ生きていけないと、そうギルドに宣言したの」
そんなマリをニアは見詰め、そして抱きしめた。
「マリ、それがあなたの幸せなのね」
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