7
新たな西の魔女がいまだ決まっていないと言うのに、今度は北の魔女の病が報じられた。
北の魔女とて西の魔女と同じほどには高齢だ。病をきっかけに引退したいとギルドに申し出たらしい。理由が理由だけに、ギルドとしても慰留することもできない。せめて、後任の魔女が決まるまで待って欲しいと言うしかない。北の魔女もそこまで強引なこともできず、まず西を決め、そのあとすぐに北を決めて欲しいと言うにとどまった。西と北、それぞれ選出理由が異なるため、同時に決めることができないことは周知のことだ。
北の魔女の希望は新たな西の魔女の選考会議の冒頭に言いだされ、そのことはむしろ西の魔女をどう選ぶかの指針にもなった。西に引き続き、北も統括魔女が交代する。それを鑑みて選ぶならば、となってくる。
数日が過ぎたころ、マリがギルドに呼び出された。そしてその翌日、マリが次の西の魔女となると発表された。しかし、マリが魔導士学校に帰って来たのはそれからさらに三日の後だった。
その間、ニアは心配するしかなく、いつものベンチでホビスを相手にイライラを募らせるしかなかった。更にマリと同時にサリーの姿が学校から消えていることも気になっていた。サリーがどこにいるのかは誰も知らなかった。ひょっとしたら副校長は知っているのかもしれないが、副校長に訊きに行くわけにもいかなかった。
だからマリが帰って来たとき、マリを質問攻めにしたかったが、当のマリはニアを見るなり泣き始め、それどころではなくなった。
やっと落ち着いたマリは
「お願いだから、三日だけまって。それまでは何も言えないの」
と言うだけだ。サリーの姿が見えない、とニアが訊いた時、少しだけ、はっとした様子だったが、その時も
「今は言えないの」
とだけ答えた。
そしてその、三日後。
次の北の魔女はニア、とギルドから伝令が届いた。どういうことなの? ニアは今度こそ追及する構えだ。いつものベンチでニアとマリ、二人きりだ。
この三日間、ほぼ泣き詰めのマリの目は腫れて、可哀想に、といつものニアなら言っただろう。だけど、それどころじゃなかった。
「私にもよく判らないの」
マリが か細い声で答える。そして、この場所に、今まで張ったことのない結界を張り詰める。誰にも聞かれてはいけないのだとニアも緊張する。
「ギルドに行ったら、東西南北の魔女と、魔導士ギルドの長、それに小ギルドの長が四人、顔も知らない人ばかりに囲まれたの」
そう、顔も知らない人ばかり、のはずだった。
「サリーがいたのよ、その中に」
そしてまた泣き始めたマリに
「どういうこと?」
ニアは呆気にとられるばかりだ。
「ううん、その中に、っていうのは間違いね。そのほかに、っていうのが正しい。サリーはただの魔導士ではないらしいの」
やっと落ち着いたマリが途切れ途切れに話し出す。
「ニアも北の魔女と決まったから、もう言ってもいいのだけれど、ギルドでも最重要機密に当たるから、誰にも言ってはいけないわ」
更にマリが結界を強化する。訳の判らないままニアもそれに手を貸し、結界はかなり強度なものになった。
「
「数百年に一度現れる、男の子なのに、生まれつき力を持っている、ってあの?」
「そう、その示顕王。サリーがそれだって、ギルドが言うの」
「……それって ――」
またもマリが泣き始める。
「総ての神秘の上に
ちょっと待って、ニアが小さく叫ぶ。
「それって、間違いないことなの?」
確かにサリーは博識だと思う、力も強いのだと思う。
「でも、それだけでしょう?」
「うん、本当にサリーが示顕王なのか違うのか、それは判らないわ。でも私、初めてサリーにあったあの日、彼がマグノリアの枝を再生したのを見ているの」
魔女でさえ、死んだものを生き返らせるのは至難の業だわ。
「それを彼、ヒョイっと枝を投げるだけでやってのけたのよ」
「……」
「ビリーは普通の子だった。だけど後から生まれたサリーは普通じゃなかったの。死産で周囲がオロオロする中で、私の背を叩きなさい、とはっきりとそう言ったそうよ。息をしていないのにそう言ったのよ。生まれたての
生まれながら神秘力を操る男児は珍しくないわ。だけど、なぜかその力が本人に悪影響を及ぼして、早死にさせることも知っているでしょう? だからサリーも力を封印されたの、天寿を全うできるように。ビリーは魔導士に、そしてサリーは市井に、だから二人は別々に育てられたのよ。
「それなのに、サリーの封印が解けてしまったの。少しずつだけど」
切っ掛けが何だったのかなんて、もうわからないそうよ。だけどサリーが神秘力を操って、いろいろなことができる事実は隠しようもなくなって。
「だから、この時期の編入だったのよ」
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