第90話俺のパンツを大事そうに抱き締めながら
そして俺は珍しくも(もしくは初めて)彩音に介抱され、そして麗華と高木さんに心配されながら自宅に帰る事が出来たのであった。
因みに後日高木さんの両親から物凄い勢いで土下座されて、お詫びの品として菓子折りを頂いたのはまた別の話である。
◆
眠い。
寝不足である。
むしろあんな事があって寝る事ができる人がいればいたらそいつはもうサイコパスか何かなのではなかろうか。
しかしながら時間というものは人類皆平等と言わんばかりに皆等しく一定のスピードで流れてやがる訳で、気がつくと辺りはすでに明るく、スズメがチュンチュンと鳴いているのが聞こえてくる。
あぁ、鬱だ。
寝ずに朝を迎えるというのがこれ程までに精神的に来るものだと、俺は今日初めて経験する。
そんな経験、したくなかったけどな……。
寝てないのでセルフツッコミにもいつものキレがないと自分でも分かる。
そして俺はアラームが鳴る前にスマホを手に取り、アラームを鳴らないようにすると重たいまぶたを何とか開いてシャワーを浴びに行く。
「あら、奇遇ね。 今日はいつもより三十分程早く起きたのね。 どうせなら一緒に私とお風呂に入っても良いわよ?」
「うん、おはよう麗華。 俺の、昨日洗濯機に入れていたはずのパンツはちゃんと洗濯機に戻しといてね……。 あとお風呂は俺一人で入るから、できれば脱衣所から出て欲しいんだが?」
「あら残念。 でもそういう事は大事に将来の楽しみとして取っておくものよね」
うん、もう驚く体力も無い。
きっとこれがここ最近の麗華の日常だったのだろう。
なんで俺は今まで今事に気づけなかったのだろうか?
「一緒に入るのがまだ恥ずかしいのならば、私が背中を──」
「却下。 片方は奉仕としてだから一緒お風呂を利用するという意味ではない。 的な、某カードゲームみたいな裁定とか無いから」
「あら残念。 水着で──」
「却下。 片方は裸では無いから大丈夫とかも無いから。 あと俺が脱ぐまでの時間稼ぎをしても麗華が脱衣所から出ていくまでは脱ぐつもりもないから」
「あら、気づいていたのね。 残念。 でも、近い将来では当たり前のように一緒にお風呂を入る仲にしてあげるので楽しみにしていて頂戴」
麗華がそう言うと本当にその未来を現実にしてしまいそうで、否定したいけれども否定できない自分がいる。
こういうタイプは敵にしたら恐ろしいのだけれども味方にすれば頼もしいというものだと思っていたのだが、味方にいても恐ろしいというのは如何なものかとクレームを入れたいのだが、このクレームはどこに入れたらいいのかいい加減教えて欲しい。
そして麗華はそう言うと、ようやっと脱衣所から出て行ってくれた。 俺のパンツを大事そうに抱き締めながら。
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