第86話高木さんの欲望
「そ……そんな甘い罠に引っ掛かるほど私は馬鹿ではありませんっ! あ、あんまり私を見くびらないでくださいっ!!」
そして麗華の誘いに高木さんは真っ向から断るのだが、その視線が泳いでいるのは気のせいであろうか?
一体全体、二人の間でどのようなやり取りがされたのかは分からないのだが、麗華の言葉が高木さんをあそこまで同様させてしまう程の言葉であった事は間違い無いだろう。
その内容が何なのか、気になるのだが、どう考えても知ったら最後、元の生活には戻れないような気しかしないんで興味がない風を装って何とかやり過ごす。
「そ、そうですか……残念です……」
「うっ、そ、そそそそんな表情をしても無駄ですからねっ!!」
「私達は、友達だと思っていたのですが、高木さんがそう言うなら仕方がありませんね。 私達はここで引かせて──」
「そんな事はないですっ! 仲間になりましょうっ!!」
しおらしそうな表情で引こうとする麗華なのだが、俺はあの表情が演技である事に気づいている。
そして、高木さんがそんな麗華を引き留めた瞬間、高木さんには決して見えない角度で、まるで『餌に魚が食いついた』と言いたげな笑みを浮かべているのが俺の方からはバッチリと見える。
あれ程怖いと思っていた高木さんだったのだが、この光景を見せられてはむしろ麗華の方が怖いとすら思ってしまう。
「そう、私達は友達ですもんねっ! 私もこの学校に入ってきた時から何だか氷室麗華さんと天上彩音さんとは友達だと、根拠はないのだけれどもそう思っていたのよっ!! こ、こんな偶然もあるのねっ!! きっと私達は友達になる事が運命だったのよっ!!」
「あらやだ、氷室麗華さんだなんて他人行儀な呼び方ではなくて麗華と呼んでくださいな。 美優さん」
「あっ、そ、そうですよねっ! 私達は友達だもんねっ! れ、れれれれ、麗華……さんっ!」
「はい。 美優さん」
あぁ、こうして信者を増やして行くのか……とつい思ってしまう。
俺にプリントを渡すときに声をかけられただけでこれ程の行為をしてしまう程人との関わりに飢えていた高木さんからすれば、友達というのはきっと喉から手が出るほど欲しいものだったに違いない。
それが一気に今日二人もできた(と高木さんは思っている)のだから彼女に取っては自分の欲望よりも友達との繋がりを優先するのは当たり前なのであろう。
そもそもが人との繋がりを持つ事が高木さんの欲望である為断る理由もない。
ただ一つ言えることは、俺の周りの女性でまともな女性が一人もいないという事だけである。
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