第60話きっと良い事
そして俺達は目的の店舗である洋服店へと向かうのだが、入り口から向かって徒歩五分ほどで到着できる場所に有るはずのその洋服店に到着したのはイーオーンに到着してから一時間が経った今、いまだに俺達は目的の洋服店に到着出来ていなかった。
「わぁ……これ、とっても可愛いですね……」
というのも麗華の好奇心はかなりのものらしく興味が湧いたものが目に入ると某掃除機もびっくりの吸引力で吸い込まれてしまうからである。
そして俺としては別段急いでいる訳でもなく、黒一色の服を着ているからと言って一緒にいて恥ずかしい訳でもないのだから麗華が楽しんでいるのならば別に急ぐ必要も無いと麗華の行きたい場所へ一個一個周っている為かなり時間を要してしまっているのが原因である。
それはまるで犬を好きに歩かせて散歩させている感覚に近いものを感じるというのは胸の奥にしまっておこう。
しかしながら一店舗に十分前後はかかっているので目的の洋服店へは長い道のりになりそうだと長期戦を視野に入れる。
「ねぇ、健介はこのお人形さんを可愛いと思わないのかしら?」
「あぁ、確かに可愛いね」
そう言いながら笑う麗華の方が可愛い。
とは思うものの寸前のところで飲み込む。
今現在女性向け雑貨売り場にいるのだが、女性向けと謳っているだけあってそのどれもが麗華の琴線に触れまくり、普段の麗華からは絶対に聞けないであろう『可愛い』と言う言葉が大安売りの大バーゲンセール中と化してしまっている。
そしてその麗華を今俺が独り占めしているという現状に普段であれば絶対に思わないのだが、ほんの少しだけ誇らしいとすら思えて来るのだから不思議である。
もしかすれば昨日の一件で俺自身美人に対して多少なりとも苦手意識が無くなってしまったのかもしれないのだが、苦手意識がなくなり偏見無く過ごせるというのはきっと良い事なのだろうと、俺は思う。
「では、長居していては先に進まないので名残惜しくはありますが先に進みましょうか」
そして俺の感覚からすれば十分に長居していたとは思うものの、それを口にする事も無く、そうするのが当然とばかりに差し出された麗華の手を握り、店を出て歩き出す。
「なぁ、お腹すかないか?」
「そう言われてみれば確かにお腹が空いているような……もう十二時」
そう言いながら麗華は腕時計で時刻を確認するのだが、時刻を確認すると申し訳なさそうな表情で俺へ視線を向ける。
「ごめんなさい。 わ、私が寄り道ばかりしたせいでかなり時間を無駄にしてしまったみたいね」
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