第41話この時ばかりは感謝
それは、例えるならば懐いた猫が気にいった人物にすり寄り匂いを付けるかのような動作。
並の男性ならばあの氷室麗華にこんな事をされては一発で惚れてしまう攻撃力があり、現に扉の向こうからは怨念と悔し涙を啜る音が聞こえて来る。
普通に怖い。
しかし、俺からすればあの氷室麗華にされても可愛いとか何とかよりも恐怖の方が勝り、それどころでは無いのだ。
同じ
恐らく俺も美人恐怖症じゃなかったら一発で惚れていただろうし、何なら性欲に負けて襲っていただろう。
そう思うとこの催眠術アプリを使われている今ほど美人恐怖症で良かったと心から強く思う。
「すーっ、はーっもう、我慢できないわ」
「ちょっ!?」
そして氷室麗華は頬を赤らませ、まるで発情したかのような表情で上目遣いをし、瞳を潤ませながらそんな事を言うと力任せに俺をマットの上へと押し倒すと、そのまま俺の股間の上に跨り俺の制服とワイシャツのボタンをはずして胸元へ顔を埋めて深呼吸をし、ただでさえ荒い呼吸が更に荒くなっていくと共に何かを耐える様な苦悶の表情も見せ始める。
そして少しだけ開いた扉の向こうから
『死ね死ね死ね』
『殺す殺す殺す』
『滅滅滅』
という言葉がお経の様に聞こえて来て二種類の全く違う恐怖と、ほんの少しの性欲で俺の股間から出してはいけない黄色い聖水が出そうになるのをぐっと堪える。
何とか耐えている俺を、褒めてやりたいくらいだ。
「ひゃうっ!?」
「うふ、催眠術にかかっていても感じてしまうものなのね。 これは良いことを知ったわね。 だけれどもまるで蛇の生殺しじゃない。 こんな事なら彩音さんと協定を結ばなければ良かったかしら。 この状況で襲えないなんて……でも、きっとこの事を彩音さんに教えたらきっと試すだろうから、そうなれば彩音さんも我慢できないはず。いえ、出来るはずないわ。 そうなれば三人でやれば良いのよ」
そして一難去ってまた一難、氷室麗華が俺の乳首を舐め、思わず変な声が出てしまった。
余りの恥ずかしさに顔が真っ赤に染まって行くのが分かり、さすがにここまで顔を真っ赤にしてしまっては催眠術が効いていないというのがバレるかもと覚悟したのだが、氷室麗華はそれどころでは無いらしい。
必死に何かを我慢しながらそれを解消する方法をあれやこれや思考を巡らし、それらが口からだだ洩れである。
俺も状況が状況の為全て聞いたわけではないのだが、どうやら彩音と交わした協定というもののお陰で今の俺は首の皮一枚で助かっているようだという事が分かった。
普段は消えて欲しいとすら思う彩音なのだがこの時ばかりは感謝である。
ありがとう、彩音。
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