第21話それだけである
コイツが、天上彩音が変るわけが無い。
そう分かっていても、ほんの少しだけ期待していた自分がいた事に気付き、その分悲しくなる。
そして将来就職するときは親にも就職先を教えず、ここではないどこか遠くへ逃げよう。
ここまで育ててくれた親を憎んでいる訳でもなければ、むしろ逆に感謝すらしている分心苦しいのだが、それよりも俺は『天上彩音のいない日常』という奴を過ごしてみたいのだと、今日改めて強く思った。
「催眠術にかかったかしら? 取り敢えず右手上げてみて? うん、ちゃんと催眠術にかかっているみたいね」
俺が催眠術にかかっている事が嬉しいのか彩音は普段俺の前では見せたことのない、年相応で柔らかな笑顔を向けて来る。
きっと、その笑顔を見た男性百人中百人が恋に落ちたであろうその笑顔の理由が、手ごろな玩具を手に入れたからであり、なおかつ彼女の性格を知っている俺からすれば悪魔の微笑みでしかない。
「じゃぁ、そこのソファーの真ん中に座って」
そして俺は彩音の言葉に従いソファーの真ん中に、言い返すことも無く言われた通りに座る。
こんなチキンな俺も大っきら──
次の瞬間、俺の思考は止まってしまう。
何故ならば彩音が俺の膝の上に座ったからである。
お師匠様。
天竺はここにもございました。
俺の膝の上に感じるは女性特有の柔らかさ。
それもおしりと太ももという普段では決して触る事の許されない禁断の柔らかさが俺の膝上でふにふにもともちとその存在感を放ち続けているではないか。
「今日は観たいテレビがあるからダイニングじゃなくてリビングで食べるからねっと、座りにくいわね、よっほっと」
「はうっ!?」
「……………………催眠術にかかってないかと思ったけど気のせいか」
そして俺は膝上の天竺を堪能していたその時、彩音が座り心地が悪いと座りなおしたのだが、その座りなおした場所が悪かった。
事もあろうに彩音は更に奥へお座りなおしたのである。
そう、その場所とは俺の股間の上。
俺のジュニアが反応した瞬間催眠術にかかっていない事がバレてしまい、状況も状況の為間違いなく殺される未来しかない。
「よっと」
そして彩音は更に追い打ちをかけるかの如く俺を背もたれにして体重を預けて来るではないか。
当然そうなれば彩音の後頭部が俺の鼻先にあるわけで、コロンでもない女性特有の甘い香りが俺の鼻、そして脳をこれでもかと刺激して来る。
「じゃあ、命令ね。 私を包み込むように優しく抱きしめて…………んっ」
ここは何処だ? 地獄なのか、天国なのか? 最早俺には分からない。
ただ分かる事は女の子の柔らかさと良い匂い、それだけである。
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