第15話氷室麗華の言葉に従うほかなかった

「ふーん、そうなんだ。そっちがそのつもりなら受けて立とうじゃないの」

「どうしたのあやちゃん?」

「な、何にも無いよー」

「えー? 本当ぉー? さっきから少し様子が変だよ? 怪しいー。 もしかして遂にあやちゃんにも好きな異性が出来たとかっ!?」


 その瞬間、クラスの音は消え、彩音の発する言葉一語一句聞き逃すまいと、周りにいる男性たちの聴覚は研ぎ澄まされる。


「そんなんじゃないよ? ただ、大切に育てた草花に害虫が付いたのならば食べられる前に駆除しなきゃよね?」

「あー、あやちゃんガーデニング? みたいなのやってるんだっ!? あやちゃんのイメージにピッタリだよっ!!」

「もう、褒めても何も出ないよ? さやちゃん」


 そしてクラスにはまた平穏な日常が訪れ、男子クラスメイト達は安堵の表情を浮かべるのであった。





「さぁ、着いたわよ」


 氷室麗華に着いていくこと約十五分。


 そこには昨日と同じ『体育倉庫』と書かれた物置へとたどり着いていた。


 そして俺はこれから起こるであろう最悪の展開を想像して動く事が出来ないでいた。


「あらどうしたの? 早く入って来なさいな」


 そんな俺へと、先に体育倉庫へと入った氷室麗華が俺が立ち止まっている事を疑問に思いつつも早く入るように促してくる。


「あー、体育倉庫の仕事は昨日の放課後で全て終わったんじゃなかったっけ?」

「……用事が無いと体育倉庫をお昼休みに使用しちゃいけないのかしら?大丈夫よ。ちゃんと先生方にはお昼休みに使用する事の許可は得ているから」


 そして氷室麗華は俺を体育倉庫へと入れる言い訳でも考えているのか一瞬だけ言葉に詰まるも、用事が無ければ使っちゃだめなのかと開き直った返しをしてくる。


 そういう事ではないと、声高らかに言えたらどれ程楽であろうか。


 恐らく氷室麗華は『理由はどうあれ体育倉庫へと入れさえすれば勝ち』とでも思っているのだろう。


 あながち間違っていないからこそ俺は体育倉庫へと入る事を躊躇っているのだ。


「時間が無いの。 早くしてちょうだい」


 そんな俺にしびれを切らしたのか氷室麗華はその苗字に違わぬ冷え切った声音で体育倉庫へと入って来るように告げる。


 そんな声音で命令されれば、ただでさえトラウマがある俺は氷室麗華の言葉に従うほかなかった。


「やっと入って来たわね。 じゃあ昨日と同じでそこの席に座ってちょうだい」

「あ、ああ」


 一体これから何が起こるのか。


 催眠術アプリは昨日徹夜でサービス終了させているのだ。


 流石に催眠術アプリを使って来る事は無いだろう。

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