第107話
デザイナーさんが何かに憑りつかれたように、紙に次々とデザイン画を描いている。
すごいのは、湯水のようにデザインが湧いてくるデザイナーさんの方だと思う。
「ああ、リリーシャンヌ様、祝勝会は何色と組み合わせましょうか?」
ああそうか。色のついた布やブーケと組み合わせるとなると……。
……。
「いらないわ……。1か月後の祝勝会には、白で……真っ白なドレスで出席します」
天使だと噂されている私が、天使の羽根のような白いドレスで現れたら、目立つだろう。私よりも、ドレスが目立つだろう。
天使のよなドレスを着ていたと、天使の噂が薄まればいい。
白いドレスの噂で、着ていた私の噂が減ればいい。
……そして、その次には同じ白いドレスが別の顔を見せる……あ、どうせなら……。
「ねぇ、間に合うのであれば、当日……途中でブーケや布を飾り付けるのはどうかしら?」
「え?」
「白から別の色……色直し……お色直し……。ちょっとした休憩場所は与えられると思うの。そこに侍女……いいえ、あなたでもいいわ。控えていてもらって……ぱぱっと、ブーケをとりつけてもらうというのは?」
真っ白というイメージをもった人たちが、私を探そうとしたら探しにくくなるんじゃないかしら?
「まぁ!なんということでしょう!リリーシャンヌ様!1つの舞踏会で、ドレスを着替える……それはとても出来ませんが、まるで着替えたようにイメージの変わるドレスに途中で変化するなんて……!なんて素敵なアイデアなのでしょう!」
デザイナーさんがフルフルと小刻みに震えている。
うん、かわいい真っ白なドレスを来て、エミリーに挨拶するでしょう。その後は真っ白をやめて会場で目立たなくしているつもり。
「皆の注目は一段と集まるでしょう!ええ、まるで魔法のようにドレスを替えたリリーシャンヌ様に!そして会場中の噂に……主役になることは間違いありません!」
え?いや、注目?それはいらない。やっぱり無難な、どこにでもあるような、オレンジ色のドレスに……。
と、デザイナーさんに言おうと思ったけれど、とても言い出せるような雰囲気ではなかった。殺気だったように、紙にデザインを書き留めている。
……覚悟。
うん、皇太子妃になると、エミリーの横に立つと決めたんだもの。目立つことが嫌だなんて言ってられない。
ドレスに興味をもった女性陣に囲まれるなら問題ないじゃないだろうか。男性陣が寄ってこない方がありがたい。
うん、そう思うことにしよう。
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