第85話

 公爵令嬢だと身分を明かしてしまえば、勝手に触れるような真似をする人は減るのでは?体調がすぐれないとその場を去ることに意義を唱えるような人はいなくなるのでは?

 ああ、まって。そうよ。勝手に触れるような真似をするのは良くないことだわ。

 でもローレル様は、立場を利用して爵位の低い女性を思い通りにしようとする男性がいると言っていた。

 ローレル様は困ったことがあれば私の名前を出すようにと言ってくださった。

 公爵令嬢の私にだってそれはできるんじゃない?役に立てるんじゃない?

 ……いえ、まって。

 人一倍男性に触れられたくないと思っている私なら、望まない男性に肩を抱かれることも、腰に手を回されることも、手を握られることも……どれほど女性が不快感を持っているのか知っている。

 アレルギーがなくたって、ぞっとする女性がいると侍女が私を慰めるように教えてくれたことがある。

 元々貴族社会では女性に勝手に触れてはいけないというルールがある。婚約者や配偶者や家族でもない女性の手を取るならば、手を差し伸べるのがルールのはず。高位貴族の令嬢であれば、勝手に触れられるようなことはそうそうある物ではない。

 増してや、王族に手を伸ばして勝手に触れる者など、それだけで不敬だ。

「あ……私、皇太子妃としてやっていけるかもしれない……」

 私が、皇太子妃となり、王妃となったら……。

 私になんか務まるはずがないと、そういう考え方しか出来なかったけれど。

 逆に、私にしかできないこともあるんじゃない?

 女性に勝手に触れないようにというルールが守られていないと告発することができる。女性にむやみに触れると王家に睨まれるとルールを厳格に守らせることができる。……そうだ。被害を受けた女性からの声を聞きますと。味方になってあげることができるんじゃない?

 ああ、エミリーなら、きっと女性の気持ちが分かる。エミリーが王になれば、女性の味方になってくれるんじゃない?

 私とエミリーだからこそ、女性をもっと守る世の中にすることができるんじゃない?

 もちろん世継ぎ問題はある。それは数年後に弟殿下や弟殿下のお子様を世継ぎとするだけの話かもしれない。

 元々弟に王位を譲りたいとエミリーは言っているんだし。結婚しても世継ぎが生まれなければ流石に譲れるでしょう。

 公爵令嬢ならば、皇太子妃ならば……そして後は王妃となれば……。

 男性に酷い扱いをされている女性を救える。

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