第41話

「何あれ。男性に囲まれていい気になってるんじゃないの?」

「この間も仮病をつかって気を引いたのでしょう?」

「ジョージ様を使って、ディック様をじらして落とすつもりなんじゃない?」

「やだわぁ。何それ。相当なタマじゃないの」

 女性たちの声が耳に届く。

 違う、そうじゃない。仮病なんて使ってないし、ディック様をじらすとかそんな気持ちなくって……。

 ディック様たちにもどうやら女性たちのささやきは聞こえていたようで、苦笑している。

「僕は君を見たときに、不思議な気持ちになったんだ。そんな回りくどいことをしなくても、是非話がしたい」

 ニコリと笑って、手を握られた。

 ああ、ダメ、やばいってば。

「くしゅん、くしゅん」

 くしゃみがまた出てしまう。

 目が痒い。

 息が……苦しくなってくる。

 全身がムズムズとしてきて、背中と足が熱を持ち始める。手袋を外すと、触れられたところから発疹が広がっているだろう。

「ご、め……さ……」

 立ち去ろう。

「おや、大丈夫かい?緊張して立ち眩みでも?別室に移動しようか……」

 ディック様が私の肩に手を回そうとする。

 無理、本当に無理。お兄様、助けて……。

「ディック様、その子の仮病に付き合うことはありませんわ」

 ぴしゃりと、エカテリーゼ様の言葉が響いた。

「いや、本当に苦しんでいるように見えるけれど」

 苦しい。とにかくディック様と距離を取りたい。助けて。もう、倒れそうだ。

「仮病の演技が上手いのですわ。その手で、何人騙されているのか分かったものではありません。そうして、男性の注目を浴びたい、女性からも同情を引きたいというのがお分かりになりませんの?」

 エカテリーゼ様の言葉に、私の周りにいる女性たちがくすくすと笑い始める。

「なんだ、かわいい顔して……そんなことせずともいくらでも声がかかるだろうに」

 バズリー様の声が遠い。

「そういう相手が欲しいならいつでもお相手しますよ」

 耳元で何かささやかれた。

 苦しい。誰も近寄らないで。私から離れて。

 そう思っているのに、周りにどんどん人が集まっているようだ。

「やめなさい。苦しんでいるのが見えないの。皆して、何をしているの!」

 この声は……!

「ローレル様、仮病女を庇うおつもりですか?」

 エカテリーゼ様の前にローレル様が立ちふさがる。

「大丈夫?」

「苦しそうだわ、お水を飲む?」

 私の両脇を、アンナとハンナが支えてくれた。

 よかった。

 男性の手から逃れられた。

「ありが……と、少し……休めば」

 両脇を支えられながら、人の輪から抜け出し、近くの椅子に座らせてもらった。

 はぁ、はぁ。息が、できる。全身のムズムズはまだ収まらないけれど、くしゃみは止まった。

「仮病?あんなに苦しんでいるのを目の前にして、よくそんな言葉が出ますわね?その言葉を信じるあなた方も信じられませんわ」

 エカテリーゼ様が、ディック様、バズリー様、ジョージ様、そして周りに集まって笑っていた人たちを順に睨みつけている。

「わ、私が嘘をついたとでもいうの?」

 エカテリーゼ様が憤りを見せる。

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