第27話
「ビックリしたけど、嫌いにならないし、エミリーは本当に可愛い。ああ、可愛くて思わずぎゅーってしたくなっちゃったの。これで、おあいこね!」
両手をのばしてエミリーの頭をぎゅーっと抱きしめた。
「かわいい、エミリー、かわいい」
柔らかいエミリーの髪に頬をすりすり。手でなでなで。
「ああ、そうか……エミリーはもしかしてこうして、熊やうさぎのぬいぐるみを抱きしめて眠ったこともないのね……」
かわいいだけじゃなくて、あの何とも言えない落ち着きをもたらしてくれるあの感じを……。
「リ、リリー……あ、あの……」
なでなでしているとエミリーの耳が真っ赤になっているのが見えた。
「どうしたの?」
あんまりなでなでしすぎて、子供扱いされたみたいでいやになったのかな……恥ずかしくなってきた?
ぱっとエミリーから手を離すと、エミリーは弾かれたように後ろに体を逸らして、両手で顔を覆ってしまった。
「もう、リリーの馬鹿ッ!」
「……え?私、馬鹿なの?」
「そうよぉっ!馬鹿馬鹿!もうっ!む、む、胸が、当たってたわよっ!わ、私、いくら可愛く見えたって、男なんだからっ、気をつけなさいよっ!」
「やだ、エミリーったら、女なんだもの、平気よ。男に見えるだけで、女でしょ?恥ずかしがることなんて……」
急に男だなんて言われて、距離を置かれてしまったようで悲しくなって、エミリーは女だと強調する。
「ん?あら?ええ、そうね、私は、男に見えるだけの女ね?あら?でも……恥ずかしいのよっ。リリーも、女性の胸に顔をうずめることを想像してみたらいいわ!」
言われるままに、想像する。
思い浮かんだのはローレル様だ。
ローレル様のあの豊かな胸に顔を埋もれさせ……。
柔らかな胸、そしてきっといい香りのする胸に……。
顔が赤くなる。
「そ、そうね、確かにエミリーの言う通りだわ!女同士でもちょっと恥ずかしいわね」
熱くなった頬を冷ますように、手であおいで風を送る。
「そんなに恥ずかしがって……誰なの?いったい、誰に抱きしめられた想像をしたの?」
エミリーの言葉が終わる前に、気が付けば今度は私の頭が、エミリーの胸に抱え込まれていた。
想像したローレル様のように柔らかな胸ではないけれど……。
エミリーの匂いが鼻をくすぐる。
香水じゃない、服に丁寧に焚き染めた香木の香りだ。香水よりも高価な……何という名前だっただろうか……。
いい香り……。
■
思わず香りにうっとりとすると、エミリーが私の頭を、髪を乱さないようにそっと撫でた。
「……ぬいぐるみを抱きしめるのはどんな気持ちかしら……。リリーをこうして胸に抱いているのとはきっと違うわよね……。抱きしめて眠るのは、どんな感じかしら……」
エミリーの声が頭に響いてくる。
「……そうだわ」
いいことを思いついて、思わず出た弾んだ声にエミリーが私の体を離した。
「ねぇ、エミリー、男の人がぬいぐるみを持つ流行を作り出せば、エミリーも持つことができるようになるわよ!」
「え?そんな流行なんて作れるかしら?」
「例えば、ぬいぐるみに婚約者や妻と同じドレスを着せ同じ香水をつけるの。それを男性に送ると浮気防止になるとか」
私の言葉にエミリーは賛同してくれない。
いいアイデアだと思ったのになぁ。
「……怖いわね。まさに、女の執念がこもった呪われそうなぬいぐるみね……」
……そうかな?
「浮気を疑われるような男は、たくさんのぬいぐるみに囲まれることになるって考えると……ぬいぐるみの可愛さが吹っ飛んじゃうわっ!浮気しないでね、私のこと忘れないでね、私だとおもって大切にしてね……浮気したら承知しないわよ、私の髪をぬいぐるみに入れてあるわ、浮気できないように呪いをしてもらったのよ……まで、想像しちゃったわ……」
エイミーがぶるぶると震えた。
「髪の毛……呪い……夜中にぬいぐるみに首を絞められそうっ!」
「きゃー、なんてこと言うの、リリー!怖くてぬいぐるみを夜中に見れないでしょっ!」
「大丈夫よ、エイミーはぬいぐるみを持ってないでしょ!」
「あら、そうだったわ!」
「ぷっ」
「ふふふふふ」
二人で声を立てて笑った。
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