第26話

 そうか。もっと女友達が欲しいと思っても、エミリーには無理だもんね。それなのに私……。

 エミリーに謝ろうかと思ったけれど、謝るとまた傷つけてしまうだろうか。

「ねぇっ」

 エミリーがぱっと顔を上げた。

「私は?私のことはどう思ってる?ローレル様よりもかっこいい?」

 エミリーの真剣な目が私を正面からまっすぐ見ている。

 かなりの勢いで聞かれたため、何も考えることができずに、即答した。

「全然、エミリーはかっこよくない」

 エミリーが、ショックを受けた顔をする。

 ええ、悲しませるつもりなんてないんだけど。なんで?

「そう、私は、ローレル……様のようにリリーに素敵だとは言ってもらえないのね……」

「何をっていいるの?エミリーも素敵よ。でも、かっこいいんじゃなくて、可愛いもの。エミリーは、とても可愛いのよ」

 エミリーがちょっとだけ悲しい顔から復活。だけれど、かなりまだ不安げな表情をしている。

「合えなかった1か月の間にも、エミリーのことを何度も思い出して、コサージュを見たら目を輝かせて喜んでくれるかなぁとか。その様子が全部可愛いだろうなと思って……。その、私には、エミリーは飛び切り可愛い女性で、かっこいいとは違うの」

 エミリーの顔が輝いた。

 私が何度も想像の中で見ていた、飛び切りの笑顔だ。

「きゃーっ。うれしい!私のこと、いっぱい思い出してくれたの?感激だわ!わ、私も、リリーのこと毎日毎日考えてたの!」

 エミリーの言葉に、私も胸がいっぱいになる。

「本当?私のこと毎日考えてくれたなんて……私だけが、エミリーに会いたくて仕方がないわけじゃなくてよかった」

 1回少し話をしただけ、そして、また会おうと簡単に約束しただけ、それなのに、こんなに会えることを楽しみにするなんておかしいのかなって。私だけがそう思っていたら寂しいなって思ったから。

 エミリーも私に会いたいってずっと思ってくれたんだと思ったら……。

「嬉しい、エミリー」

「ああ、リリー、なんてかわいい顔をするのかしら。貴方は私を可愛いって言ってくれるけれど、リリーの可愛さには到底及ばないわ……本当にかわいい。どうしよう……ねぇ、リリー、頬にふれてもいいかしら?」

 エミリーがトロンとした目つきで私を見る。

 理想の可愛さと言っていたけれど、エミリーには私はどう見えているのだろう。こんな風に生まれたかった……と、そういう気持ちを持って私を見ている?

「いいわよ。私も、エミリーの髪に触れてもいい?」

 日の光でキラキラして柔らかそうなオレンジ色のエミリーの髪。

「ええ、髪と言わずに、リリーになら、どこを触られてもいいわ」

 エミリーの手が、私の頬に触れる。

 私の手が、エミリーの髪に触れる。

「柔らかいのね……」

 エミリーがため息のような声を漏らす。

「エミリーの髪も柔らかいわ」

 ふふっと笑って答えた。

 もしかすると、エミリーは体も女性になりたいと思っているかもしれない。

 柔らかいと言う言葉には、男の体の自分とは違うというショックを受けてのことかもと思ったけれど、慰めの言葉も何も口にしない。何でもないことのように、返事をする。

 エミリーの指が、私の頬を撫で、そして唇にふれた。

「さくらんぼのような唇も……とても柔らかいのね……」

「唇は、エミリーも柔らかいでしょう?」

 頬なら多少男女で柔らかさの違いはありそうだけど、唇なんて変わらないんじゃない?

「確かめてみて」

 エミリーが妖艶ともいえる笑みを浮かべた。

 びくりと思わず驚いてしまう。

 髪を触るのとは違うよ。

 エミリーの唇に触れるなんて……。

 エミリーが、私の唇に当てていた手を離すと、私の手をつかんだ。

 髪を触っていた私の手をそっと頭からおろしてから、エミリーの顔がぐっと私の顔に近づく。

「どうだった?柔らかかった?」

 すぐ目の前に、エミリーの可愛い笑顔を浮かべたカッコイイ顔。ああ、そう、そうなの。顔はエミリオ……男の子だもん。かっこいいんだよ。仕草とか言葉とか、そういうのは飛び切り可愛いのに。顔はイケメンとか……。

 ずるいよ。

 もうっ。

「エミリー、ビックリするっから、その……」

「ねぇ、柔らかかった?」

 思わず真っ赤になってうつむく。

 まさか、唇で唇の柔らかさを確かめてなんて……。

 き、キスしてくるなんて!

「や、柔らかかったよ、エミリーの唇もっ!」

 エミリーから逃げるように体半分、横に動く。

 すると、エミリーは驚いたように私から距離を取った。

「ご、ごめんなさい、あ、あの……」

 急に今までとは違う慌てた様子を見せる。

「わ、私ったら、なんだか、その、えっと、キスするつもりとか無くて、えっと、ああ、あまりにリリーがかわいくて、気が付いたら……その」

 んー。

 かわいいものを生活から排除されているエイミーだった。

 そうえば、私も、可愛くてたまらない熊のぬいぐるみをもらった時は、ぎゅーっと思い切り抱きしめて、チュってしてたことを思い出す。

 あら、そう考えれば、うろたえて泣きそうになりながら体を抱きしめているエミリーの可愛い姿を見ていたら……。

「リリー、ごめんなさい、嫌いにならないでね?もう、二度としない……ように気を付けるわ。本当よ、だから、その、お友達でいてほしいの……」

 なんだか、無性に、ぎゅっとしたくなってきた。

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