第16話 カナちゃんと塩

 親友のカナはちょっと変わってる。

 でも、どこがって聞かれると少し困る。それってとても説明しにくくて。

 たとえば放課後、家に帰るために校門を出ようとしたときのこと。

 塀のそばにうずくまってる子はカナだ。今日は用事があるとか言って授業が終わって一番に飛び出していったのに、こんなところで何をしてるんだろう。

 はっ!?

 具合が悪くなった?


「カナ、大丈夫?」

「あ、サクラちゃん」


 しゃがんだまま振り返ったカナは、ふつうに元気そうだった。よかった。

 しかしこんなところで一体何をやっているんだ。


「サクラちゃんってマテ貝採りしたことある?」

「なにそれ」

「海で潮干狩りとかする時にね、マテ貝っていう貝が採れるんだよ」

「ほうほう。それ食べられるの?」

「うん」


 貝といえばアサリとかお寿司の赤貝とかしか食べたことないな。いや、牡蠣もあるか。

 マテ貝は知らない。本当にこの世にいる貝なのか。

 カナの言う事だからなあ……。


「その貝ってちょっと変わった細長い形でね。普段は砂の中にもぐってるんだけど、その穴に塩を入れたら出てくるんだよ」

「へええ。そんなに簡単に穴が見つかるの?」

「ここら辺にいるよって聞いたところにはけっこういたなー。あの時は採りすぎてそんなに食べれないってママに怒られた」

「そうか」


 話半分に聞いておこう。

 ところでカナが左手に持っているのは食卓塩の入った瓶だね。まさかここでそのマテ貝が採れるとでも?


「海でマテ貝が採れるなら、陸地の穴でも塩を振ったら何か採れるかもしれない」

「そんな塀際の穴とか、アリが出てくるくらいでは」

「アリなら砂糖のほうがいいかもしれない。カニが出てきたらそれなりに嬉しい」

「カニ、こんなところにいるかなあ」

「と言うわけで。さっきから穴を探してました。ほら、ここにちょうど良さそうな大きさの穴が!」


 カナの指の先には二センチくらいのまあまあ深そうな穴があった。

 蛇の穴だったら嫌だな。

 私は一歩下がってカナのやることを眺めてた。

 穴の中にパラパラと食卓塩を振りかけるカナ。


 すると、びっくりすることに穴の中から黒いものが頭を出した。

 蛇じゃなさそうだけど、何だろう。

 カナは右手を伸ばして、指先で黒いものを摘まんで引っ張った。


 黒い色のフワフワしたものが、カナの指の間で揺れている。

 蛇でもカニでもカエルでもない。たぶんマテ貝でもないだろう。

 形が定まらなくて煙のようにも見えるが、煙よりも存在感のある何か。


 カナもびっくりしたように黒いものを見ている。それからおもむろに左手に持った食卓塩を振りかけた。

 黒いものは激しく暴れて、そして今度こそ本当に煙のように霧散した。


「何かは分からないけど、黒いのが採れました」

「消えたけど!」

「塩をかけたら消えちゃった」

「なぜ塩を?」

「そこに塩があったから。うらめしーとか言ってそうだったよ」

「成仏したのか」

「わかんない。でも穴に塩を振りかけるとマテ貝または黒いものが採れることが分かりました」

「それ、もう試さないほうがいいと思うよ」

「うん」


 つまり、カナってちょっと変わってる。

 でもどう変わってるのかって聞かれたら、説明がすごく難しい。


【了】

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