第20話 アプリ「Throw into the hole」
春休みは宿題もなくて暇だ。
朝からダラダラと家でゲームしていたら、面白そうな広告が出てきた。
『Throw into the hole』
穴に投げ入れろ?
今時のアプリって説明らしい説明がない。数枚挙げられている写真を見てなんとなく使い方を想像することができるって感じ。
画面の上半分はカメラのようだ。風景をカメラで撮って、写ったものをオブジェクトとして切り取る。それを画面下部にある穴の中にドラッグ&ドロップするとポイントになる。
ポイントがたくさん貯まると、何か特典があるっぽいんだけど説明が英語だからなあ……。
まあいいや。読むの面倒だし。
分かる範囲でやって、飽きたら消せばいい。
ダウンロードしてたら、山田から遊びに来いとメッセージが来た。ちょうどいい。このアプリを見せてみよう。
靴を履いて玄関を出ながらアプリを立ち上げる。
試しに道端の写真を撮ってみた。
何気ない風景写真の中から、バスケットボールくらいの大きさの石と名前も知らない赤い花がオブジェクトとして認識される。
オブジェクトはどうやら自動で分類されるみたいで、石は黄色いボックスに、花は緑色のボックスに入った。
ボックスの中身は開けば見ることができる。ただ、そのオブジェクトを穴に入れる方法が分からない。
どうやったらポイントになるんだろ?
何かまだ条件があるみたいだ。
『Let's increase objects』
increaseは、えーと、増やす?
どんどんオブジェクトを集めればそのうち次に進むってことか。
だったら簡単だ。
俺は片っ端からその辺にあるものを写していった。
オブジェクトになるかどうかはアプリが勝手に判断しているけど、同じものを二回写しても二回目は認識しない。でも、例えば同じ種類の赤い花でもさっきの隣に咲いていたのはちゃんと認識してくれた。
微妙な違いを読み取るんなら、思ったよりちゃんとしたアプリなんだろう。
山田の家に着くまでに、どんどんオブジェクトを増やしていった。
ボックスの中身も充実してきた。多いのは緑の箱と黄色の箱。緑の箱は分かりやすい。これは草木に関係あるもので、小さな花から大きな木までもうなん十個も貯まった。黄色はいろいろ種類があって分かりにくいけど、植木鉢とか石とか、固いものが多いイメージだ。
青と赤の箱にはまだ何も入っていない。
そうしているうちに山田の家に着いた。
ピンポーン。
「おー、来たか。って、何してんの」
「新しくゲーム入れたんで見せようと思って。けど使い方よくわかんなくてさ」
「へえ。オブジェクトか。それって人も認識すんのかな?」
「どうだろ?」
「俺、撮ってみてよ」
「いいぞ。面白い格好してみ」
「おー!」
山田はオブジェクトとして認識された。黒いボックスを開いてみると中にちゃんと入っている。
「おお、すげえ」
ピコン。
通知音が鳴る。
山田のオブジェクトを二人で見てるときに、画面に吹き出しが出てきた。
『Throw into the hole』
それまで見ていた山田のオブジェクトは消えて、画面の上部に赤い花のオブジェクトが出てる。
「この花を穴に放り込めってことだよな?」
「そうみたいだ」
花をドラッグアンドドロップで画面下部の穴の中に入れると、花は吸い込まれて代わりに200ポイントが加算された。
「すげえ、これ、1ポイント1円分のウェブマネーとして使えるって書いてあるぞ」
「うそ。マジ?」
そうしている間にまた通知がある。今度は石だ。
石を穴に放り込むと150ポイント加算された。
「もっと探そうぜ、オブジェクトになりそうなもの」
「おう」
山田の家に上がって、片っ端から写真に撮った。大きなものはダイニングの椅子やテーブル、それから勉強机、教科書も漫画もなんでもかんでも。
ピコン。
また通知が来た。
今度は山田の部屋の勉強机だ。迷わず穴に放り込む。
ポイントが一気に増えた。
「すげえ!見て、山田。3万超えたぞ」
後ろに立ってた山田を振り返った時に、俺の目に奇妙なものが映った。いや、映らなかったというのが正しい。
そこにさっきまであったはずの山田の机が消えていた。
俺の顔を見て、山田も後ろを向き息をのんだ。
「俺の机がない!?」
ピコン。
また通知音が鳴る。
画面の上部には山田のオブジェクトが現れていた。
『Throw into the hole』
【了】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます