第177話 高校総体自転車ロード 第2ステージ 作戦会議

 第1ステージを終えた後、各校は第2ステージのスタート地点である銚子大橋のある、千葉県銚子市のホテルに移動した。

 神崎高校の選手達も、銚子市のホテルにチェックインし、すぐにミーティングを開始している。

 まず理事長兼監督の神崎から、無事に第1ステージを終えられたことへの慰労の言葉があった。

 そして、第2ステージをどうしたいか、選手達に確認をした。

「えっと、明日も勝負して良いですか?」

 冬希が、恐る恐る手を挙げる。

「それはもちろん構わないけど」

 神崎は少し驚いた。今まで神崎の方から冬希で勝負に行くというオーダーを出したことはあるが、冬希の方から勝負したいと言い出したのは、これが初めてのような気がする。

「青山、勝算はあるのか?」

 船津が言った。船津自身も、露崎の圧倒的な力を目にして、普通に戦ったのでは勝てないだろうと考えていた。

「実は」

「実は?」

 神崎、船津、郷田の視線が冬希に集中する。

「特にありません」

 はぁ、と3人がため息をつく。別に冬希が悪い訳ではない。国内で露崎に簡単に勝てる選手がいないから、露崎は海外に行ったのだ。

「でも、どうしても勝ちたいとは思っています」

 3人が視線を合わせる。冬希がここまで闘志を見せるのは珍しいことだ。この機を上手く活かせば、もう一段成長させることができるかもしれないと、3人は思った。

「明日のステージは、今日よりはまだ戦えるかもしれないんだ」

 神崎は言って、学校から持ってきたプロジェクターに、神崎のノートPCで再生されている映像を流した。

「第2ステージのコースレイアウトなんだけど」

 銚子大橋から大洗まで、ほぼ一直線に海岸沿いを北上するコースになっている。一見、単調な平坦ステージに見える。

「問題は、大洗市内なんだ」

 大洗付近のコースを拡大すると、かなりカーブが連続している。

「一旦、ずっと北に行って、直角カーブやS字を抜けて、南向きに大洗港中央公園の前に入ってくる」

 選手達が走るコースを車で通って録画したものを再生する。

「あ、ここ戦車が突っ込んだ旅館ですよ」

 某戦車道アニメの聖地が映る、そこですぐに右に直角に曲がる。170mほど走ると、また右に曲がり、まっすぐ走ると200mほどでS字カーブがあり、県道2号線に入ると、600mでゴールとなる。

「ゴール前の直線も短いですね」

 600mあれば、十分にスプリントは可能だが、それまでにコーナーが連続しているため、恐らくは1列棒状で最後のカーブに入ってくることになる。

「今日の霞ヶ浦一周は、ゴール前まで単調すぎたんだ。霞ヶ浦という大きな湖を一周するステージだからあたりまえなのだけど、ゴール前も何kmも前からずっと一本道で、紛れの起こらない、力の差が出やすいコースレイアウトになっていたんだ。これが、第1ステージより第2ステージの方が戦える理由の一つだ」

 神崎は、指を一本立てた。

「そしてもう1つ。郷田君にはアシストに入ってもらおう」

「おお!」

 神崎が2本目の指を立て、冬希が目を輝かせる。

 今日は、郷田は船津を守る役割を優先して、冬希のアシストにはつかなかった。露崎には発射台と言えるアシストはいないため、これだけでもかなり冬希に希望が見えてきた。

「郷田君は、大洗の市街地に入る前にメイン集団の頭を押さえて欲しい。市街地に入った時点で露崎君に先頭に立たれてしまうと、もう後は離されるだけになってしまうからね」

 郷田が先頭で市街地に入ると、コーナーが連続するコースレイアウトのため、露崎もそう簡単には郷田を抜けない。上手くやれば、ゴール前の600mまで露崎を抑え込めるかもしれない。

「その時、青山君は郷田君の後ろか、露崎君の後ろにつけておく必要がある。今日のスプリントを見る限り、露崎君の方が瞬発力もトップスピードも上だから、できれば郷田君の後ろ、つまり露崎君より前に出ていてもらいたいけどね」

「うーん、やっぱりそれしかないですよね」

 冬希は考え込んだ。短いと言っても、ゴール前の直線は600mある。冬希のスプリント持続距離は150m以下なので、露崎に対して450mは抵抗する必要があるし、抵抗できたとしても、残り150mで抜かれる可能性もある。

「チームとしてできるのは、ここまでになっちゃうから、後はゴールスプリントで露崎君をねじ伏せるしかないかな」

「ありがとうございます。後は考えます」

 疲労でも溜まっていてくれたら良いのだが、省エネで勝たれてしまったので、それも望めない。

 ミーティングは終了となり、食事、風呂と各々済ませ、選手達は自由時間となった。

 

 冬希は、スマートフォンで昨年の全国高校自転車競技会の第1ステージから第3ステージ、そして今日の露崎のスプリントを、何度も何度もずっと見ていた。

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