第128話 そして全日本選手権へ

「このあと何処に行くんだ?」

 西鉄二日市駅で、立花とあゆみは用事に向かうらしい。学校もこの近くだそうだ。

「うーん、マリンワールドとか行ってみたいな」

「マリンワールドって何?」

「水族館。多分」

「なんで、帰ったら葛西臨海水族園に行こうと約束してるのに、その前に水族館に行こうとするの!」

 春奈はおこだ。

「いや昨日のレース中に立花たちと、坂東さんたちを追いかけてる途中で、海の中道で見かけたから」

「お前、よく見てたな。俺なんて必死すぎて、ほとんど景色なんか覚えてないぞ」

 立花が感心する。

「じゃあ、立花くんと2人で行ってくればよかったのに」

 春奈が、唇をとんがらせて拗ねたように言う。

「いや、行かないから。レース中に俺と立花2人で水族館行って、お魚見てたらそれはもうニュースだから。立花がステージ優勝する以上のニュースになっちゃうからね!」

「この2人で水族館って、こわい絵だ~」

 春奈とあゆみが笑いながらいう。

 その時、冬希のスマートフォンが鳴って、メールの着信を告げた。

「何だろ・・・」

 そこには、神崎高校の創始者である初代理事長の訃報と、優勝祝賀関係のイベントが一通り中止となった旨の連絡が書かれていた。

「メールなんだったの?」

 急に深刻そうな表情になった冬希を見て、春奈が心配げに覗き込んできた。

「これ・・・」

 冬希が、春奈にメールの文面を見せる。

「え・・・」

 春奈も無言になる。

「神崎理事長が結局福岡に来れなかったのも、おじいさんのことが理由らしい」

「そっか、祝賀会残念だけど仕方ないね」

「まぁ、俺は祝賀会を開いてもらうために走ってたわけじゃないから、良いんだけどね」

 冬希は、ある程度の事情は神崎から聞いていた。なので、冬希が気にしていたのは、神崎の祖父が総合優勝の件を、死の前に知ることができたかということだった。

 立花とあゆみが、心配そうに冬希たちを見ているのに気がついた。

「あ、いや。うちの学校の初代理事長が亡くなったって話。監督のお祖父さんでもあるから、一応連絡が来て」

「そうか」

「もともと高齢だったし、命数を使い果たしただけだから、必要以上に自粛とかしないようにって書いてあるから、まあ、気を遣うことでもないよ。学校の祝賀行事とかは無くなるみたいだけど、取材とかは、選手と相談の上、普通に受けるらしいし」

 冬希は、ちょっとしんみりしてしまって、立花たちに申し訳ないと言う気持ちになった。

「青山、次はどこに出るんだ?」

「うーん、まだ何とも。坂東さんの言う通り、出場権があるなら全日本選手権って奴なのかな」

「そうか。うちはまだ全日本に出れるかどうかわからないし、出れるとしても出るかどうかわからない」

「みんな出るわけじゃないんだ?」

「ああ、まず、コースがクライマー向きなのか、スプリンター向きなのか、オールラウンダー向きなのかによって、勝算の有無が変わってくる。それと、インターハイと間隔が狭いので、コースタイプが合わないチームは、全日本に出場せずに、インターハイに目標を仕上げることになる」

「なるほどなぁ」

「去年のように、山岳を含むけど、最後は平坦なコースの場合、クライマーよりスプリンターやオールラウンダーが戦える傾向がある。坂東さんは登れるスプリンターだから勝てたとも言える」

「山岳はきついなぁ」

「まあ、全てはコースレイアウトが決まってからだな」

 西鉄二日市駅のホームに、福岡天神行きの特急電車が入ってきた。

「そうだな、じゃあ、またどこかのレースで会おう」

「ああ」

 冬希と立花は握手をした。

「あゆちゃん、また連絡するね!」

「はい、春奈さん。お元気で」

 春奈とあゆみは手を取り合って別れを惜しんだ。


 その日の、春奈と冬希が羽田空港についた時、春奈のもとにあゆみから1枚の写真が添付されたメッセージが送られてきた。

 そこには、立花が父親らしき男性と笑いながら話している姿が写っていた。

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