第83話 あゆみと立花②
「なんだっ!!」
立花は、フロントで電話を受け取ると、不満を隠そうとしない、しかし低い声で子機に言い放った。
『ああ、居たか。よかったよかった』
立花は、ロビーを見渡す。ロビーには、館内放送を聞いて、何ごとかとロビーに降りてきた選手もいる。
立花の宿泊するホテルにも、15校ほどが泊まっており、その中には、静岡も含まれている。
「何の用だ!」
『いや、俺らのホテルに、堀あゆみさんが来てて・・・』
「なに!?」
立花の声色が驚愕と狼狽に変わる。
『立花の泊まるホテルを探しているようだから、お前に迎えに来てもらおうと思って』
「わかった。すぐ行く」
立花は、慌ててロビーを出て、冬希たちのホテルへ走って向かった。
「来るって」
「来るって、じゃないだろう・・・」
植原は、心底立花に同情した。ホテルで館内放送で呼び出されるのは、ちょっと恥ずかしい。しかも、呼び出したのは学校関係者でも家族でもなく、ライバルの有名選手なのだから。
5分ほどで立花は現れた。走ってきたようで、肩で息をしている。
「あゆみ!!」
「道之くん!!」
走って抱き合うかと思ったが、2人は目の前で止まった。
「ごめんね、道之くん」
「いや、いいんだ。俺の方こそ気づかなくってごめん」
なんか、立花の意外な一面だなと思った。冬希は立花を、いつも怒ってる人、というイメージで見ていた。
立花は、冬希の方を向くと
「青山、色々すまなかった。ありがとう」
「気にしなくていいよ。ただ、女の子からの連絡に丸1日気づかないのは、同じ男として良くないと思うぞ」
「ああ、すまなかった」
冬希は、植原と雛姫の、お前が言うな、という視線に目を逸らした。ちなみに冬希が春奈からの連絡に気づかなかったのは、3日間だ。
「だが、一つ言わせてくれ」
「なんだ」
「館内放送での呼び出しは勘弁してくれ・・・」
「そうか、すまなかった」
冬希は、手で口元を押さえながら、神妙な面持ちで謝った。だが、植原と雛姫は、冬希が笑っているのを誤魔化そうとしているのがわかった。
「あゆみ、今日はどうするんだ?」
「道之くんのおじさんがホテルに泊まっていっていいって」
「俺が泊まる予定だったところか。送っていくよ。話は、帰りながら話そう」
「うん」
2人とも、冬希や植原、雛姫の方を見て、頭を下げる。
「ありがとうございました」
「会えてよかったね!」
雛姫が言い、冬希と植原がうなずく。
「それでは、また」
立花が言い、2人で並んでホテルのロビーから出ていく。仲良く話しながら、歩いていく2人の姿を、冬希はしばらく見送った。
「じゃあ、俺たちも」
「うん、青山くん、またね」
植原と雛姫も、2人並んでエレベーターの方に向かっていった。
その姿を、冬希は1人でポツンと見送った。
「福岡は、これからが本領を発揮してくると見るべきだろう」
「ああ、アシストも4人。中でも立花と舞川は強力だ。士気も高く、チームワークも強固なものになっているだろう」
冬希たちの部屋には、船津と郷田が来ており、2人は窓際で今後の展望について話していた。
郷田は3年になっての転校生だが、船津とは馬が合うようで、2人でこうやって話している姿を、チームメイトたちは良く目にしていた。
そこに、冬希が戻ってきた。
「どうしたんだ?変な顔をして」
柊が、冬希の顔を覗き込む。
「なんか、意地悪してやろうと思ったら、逆に寂しい思いをしてしまったというか・・・」
「なんだ、お前。熱でもあるのか?」
柊が、ベッドの上に腰掛けた冬希に近づき、自分の額を冬希の額につける。
柊の顔を間近で見る。あゆみに負けず劣らず、綺麗な顔をしている。
「柊先輩、俺と結婚してください」
「ぎゃーーーーー離せーーーーー!!!」
冬希は思わず、柊に抱きついて、ベッドに押し倒した。
ドタバタやっている2人を見て、船津と郷田は、うちのチームも、きっと仲の良さなら福岡に負けていない、などと言っている。
そんな状況を、潤は「うげっ」と言いながら、ドン引きして見ていた。
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