第68話 全国高校自転車競技会 第5ステージ(内牧~阿蘇山頂)② メイン集団崩壊
逃げ集団は、2級山岳を京都の「逃げ屋」四王天が1位通過、岐阜の橋本が2位通過、鳥取の岩瀬が3位通過、山形の「山岳逃げ職人」秋葉が4位通過で下りに入った。
秋葉としては、昨日同様のステージ優勝狙いで、山岳ポイント獲得のために脚を使うつもりはなかった。
山岳ポイントが欲しければくれてやる、といった心境だった。
6人いた逃げ集団は、一人がパンクで脱落、もう一人はスプリントポイントを1位通過すると、今日の仕事は終わったとばかりに、さっさと逃げ集団からドロップアウトしてしまった。
無論、その一人とは佐賀の坂東だ。
秋葉は、他の3人に付き合うことなく、2級山岳の下りを自分の持てる最大の速さで下って行った。
橋本、岩瀬、そして四王天も付いて行けない。
秋葉は一人でメイン集団との差を広げにかかった。
メイン集団では、2級山岳の山頂までは静岡が一定ペースで登っていた。
前日は、秋葉と船津の2名で逃げ切られてしまったが、今日は秋葉以外は山岳で警戒すべき選手が前にいない。
それに、無理して追うと、その分アシストを疲弊させてしまうため、静岡としては、一定ペースで追っているのだ。
今、集団は大きく3つに分かれ、先頭を行く秋葉、その後ろに四王天、橋本、岩瀬の「グループ四王天」、そしてメイン集団となっている。
グループ四王天はペースが上がらない。
2級山岳を登りきると、今度は東京のトレインが下りを牽引し始めた。
麻生、阿部、夏井、沖田、植原の順で先頭を下っていく。
植原たちが試走した結果、この下りはリズムが取り辛く、また尾崎や丹羽に比べ植原がまだ下りに関してはスペシャリストという域に達してないという点から、自分たちのリズムで下るために、チーム全員で前に出てきていたのだった。
千葉は、郷田、平良潤、平良柊、船津、そしてかろうじて残っている冬希という順で、福岡の後ろを下っている。
先頭は東京、次に静岡、福岡、千葉と続いていた。
下り切ると、平坦区間はまた静岡が集団を牽引し始める。
ペースが上がらないグループ四王天をあっさり吸収すると、一定ペースのまま平坦区間を牽引し、登りに入っていく。
静岡は、丹羽を含めまだアシストを4人全員残している。
逆に、静岡の引きに対して各チームは、アシストが厳しくなり、少しづつ遅れていく。
集団に残っているエースたちは、静岡の山岳トレインの破壊力に心を折られ始めていた。
福岡は、古賀、黒田が脱落して舞川、近田のみ。
東京も阿部、沖田、植原。
千葉はかろうじて5人残ってはいるが、郷田は苦しく、冬希に至っては虫の息だ。
静岡も、岸川が牽引を終え、メイン集団から下がって行く。
静岡としても、最初から誰がどこまで牽引するか決めており、岸川の離脱は見事なまでに計画通りの動きだった。
岸川は、前日の大観峰では船津、秋葉との差を縮める働きは出来なかったが、今日は緩斜面でペースを刻み、エースである尾崎、または丹羽の走りやすいペースを作ることで、チームに見事に貢献して見せた。
登りに入って暫く、メイン集団の動きを見ている者がいる。福岡の舞川だ。
静岡の山岳トレインの強烈な曳きに、メイン集団は徐々にその人数を減らしてはいるが、舞川はまったく息を乱すことなくついて行っている。
前年は2年ながらに山岳賞を獲得している舞川にとって、この程度の登りは登りのうちに入らなかった。
舞川は、千葉、東京、そして静岡のチームの人数を確認する。まだ少し多い。
「行くぞ」
舞川は、後ろの近田に声をかけ、一気に先頭の静岡に並び、抜き去り、二人で先頭に立った。
この恐るべき舞川のペースアップにより、静岡は陸川、沢田が脱落し、千葉も郷田、冬希が千切れ、平良潤も集団の後ろに下がるものの、何とか最後尾に残った。東京に至っては、植原一人となった。
舞川の強烈な一撃により、メイン集団は崩壊した。
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