九百九十話 修羅、吼える

(なっ!!!???)


薙刀にヒビを入れられ、ここからは打撃で勝負だと……意気込んだにもかかわらず、爪撃が弾かれた虎竜は無理矢理体勢を整えるのではなく……後方に倒れながら鋭い尾を放った。


「ぐっ!!!!!」


鋭い尾は見事ディーナの心臓に狙いを定めていたが……ディーナは腕をクロスさせ、更に金剛を纏うことで形勢逆転を拒否。


しかし、金剛を発動して魔力を纏っているにもかかわらず、尾刺の衝撃を完全に殺すことは出来ず、今度はディーナの体勢が大きく崩れた。


「ッ!!!!!」


(不味いッ!!!!)


放った尾刺は防がれてしまったものの、虎竜はそのまま一回転し、完全に体勢を整え、即座に爪撃波を。

ここが勝負どころだと判断したのか、先程まで放たれていた爪撃波よりも速く、強い。


それでも金剛を発動したディーナの体はそう簡単には斬り裂けない。

致命傷には至らないものの……金剛を発動した状態のディーナは、先程までのように素早く動くことが出来ない。


耐えて……耐えて耐えて耐え続けたとしても、虎竜の爪撃波の嵐が止まらない限り、反撃に出れない。


(この、ままじゃ! どう、すれば……どうすればッ!!!???)


ディーナの心の内に溢れるのは焦燥、焦り、後悔、打開……様々な感情が入り乱れていた。


もっと人に頼っていれば、倒せたのではないか。

そう思いながら、予想以上に虎竜が不調だからと、そんな事を考えるのは卑怯だと思い……それでも、現状から打開する策がないことに悔しさを感じざるを得ない。


なんとなく……傍にアラッドたちがいることには気付いていた。

一瞬の間ではあるが、虎竜も気を取られた相手の接近が止まった。

それを止めてくれたのがアラッドたちだと気付いた……だからこそ、あれだけ……手を出さないでほしいからという理由で試合を行ったにもかかわらず、手を貸してほしいというのは…………冒険者として、復讐者としては正しい。


身勝手な心の変化だとしても、ディーナの人生の目的は虎竜を殺す事。

その為であれば、信念を曲げてでも誰かの手を借りることは……決して悪いことではない。


(違う……違うだろッ!!!!!!)


思わず、口が開きそうになった。

身勝手な変化だと解りつつも、アラッドたちの手を借りようと……口が開きかけた。


だが、ディーナはグッと堪え、口を紡ぎ……その言葉を飲み込んだ



これは私の復讐だ。

誰かの手を借りるなら……とっくの遠に借りている。



「ぁあああああああああアアアアアアアァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」


変わりに、雄叫びを上げた。

そして……無理矢理動こうとした。


金剛を使用した状態で無理に動こうとすれば、最悪体の内側から骨が折れ、その流れで骨が内臓に突き刺さり……自滅する可能性すらある。


そのリスクは、ディーナも知っている。

それでも尚……ディーナは動いた。


「っ!?」


「ッ!!!???」


だが、その次の瞬間……ディーナの体はこれまで通り……寧ろこれまで以上の速さで動き、爪撃波の嵐を突き破り、進みだした。


「せぇえええやああああアアアッ!!!!!」


先程の瞬間、ディーナが有していたスキル、金剛が……修羅金剛という上位スキルに変化した。

能力は金剛の完全上位互換であり、金剛の体を制限なく動かすことが出来、更に全体的な身体能力も向上。


近接メインの冒険者や、防御中心……タンクタイプの冒険者の中でも、ごく一部の者しか会得出来ないレアスキル。


しかし、ディーナは自身のスキルが進化したことなど解らず、ただただ手に入れた最高のチャンスを逃すまいと衝撃波の嵐を掻い潜り、虎竜へと迫る。


「ガァアアアアア゛ア゛ッ!!!」


虎竜も何が起こったのか正確には理解していない。


それでも、これまでの戦闘経験から……目の前の人間の危険度が跳ね上がったことだけは解る。


形勢逆転されたかもしれない。

だとしても……怯える理由が無ければ、逃げる理由もない。


迫る拳に対し、爪撃をぶつける。


「「ッ!!!!!」」


最初の激突で……虎竜の右爪が完全に砕けるも、ディーナの拳にも切傷が刻まれた。


(関、係、あるかッ!!!!!!!)


ディーナには、もうここしかない。

それを理解しているからこそ、もう止まらない……止められない。


ひたすらに拳を振るい、蹴りを叩きつける。


それに負けじと虎竜も砕けた爪など関係無く、前足で攻撃を叩き込み、逃げの姿勢を一切見せない。


ここからが本番だと……そう思わせるほど両者のボルテージは跳ね上がっていくが……終わりは唐突に見えてくる。


「ジっ!!! ッ、破ッ!!!!!!!!!!!」


「っ!!?? っっっっっっっっっっ!!!!!?????」


虎竜の爪撃が振り下ろされる瞬間、ディーナは蹴りを前足の奥に当てることで、見事……完璧に弾くことに成功。


そしてほんの一瞬……ほんの一瞬ではあったが、虎竜の全身に痺れが走った。

その僅かな隙を見逃さず、懐に潜り込んだディーナの渾身の昇拳が炸裂した。


虎竜は宙で回転しながらやや後方に吹き飛び……地面に落下。

これまでのように軽やかに着地することはなく、地面に叩きつけられた。


「っ!!?? はぁ、はぁ……くっ!!!!」


しかし、追い詰められたのは虎竜だけではなく、修羅金剛を使用したディーナも同じだった。


既にそれ相応の魔力を消費した状態から、金剛よりも使用時の魔力消費量が激しい修羅金剛を使用し続けた結果……元々体力は消耗しており、魔力もガス欠寸前。


(まだ……まだ、倒せて、いない)


昇拳を決めた時の手応えからそう感じ、なんとかぶっ倒れる前にポーションを飲み干し……止めを刺そうと動く。


だがその時……虎竜の更に後方から、小さな小さな……誰かを呼ぶ声が耳に入った。

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