九百八十一話 どちらに向くか

『虎竜に子供がいたんすか?』


『まだ確定じゃないみたいだけど、その可能性があるかもしれないんだって』


アラッドたちの会話を聞きながら、クロたちはワゥワゥ、ウキャウキャ話し始めた。


『まだ虎竜と会ってすらいないすけど、超ヤバい感じじゃないっすか』


『そうですね……ポテンシャルは、クロに匹敵するでしょうか』


自分たちの中で一番強いのはクロだと、それはファルとヴァジュラも認めている。


自分たちどころか、自分たちの主とタッグを組んで挑んでも……と思う程、クロの戦闘力はずば抜けている。


『そいつはぁ……あれっすね……へへ、戦れるなら戦りたいっすね』


『一応虎竜とは僕が戦う予定だけど、その気持ちは解る』


『……私としても、自分を高めるという意味では、是非とも手合せしたい相手ではありますね』


ヴァジュラとクロは主人であるガルーレとアラッドと似て非常に好戦的であり、ファルに関しても……主人であるスティームと同じく、ザ・好戦的なタイプではないが、高い向上心を有している。


『でも、あれっすよね。今アラッドさんたちの話を聞いてると、えっと……この前アラッドさんが戦ったディーナ? って冒険者がそれを知ったら、不味いって話をしてるんすよね』


『その様ですね』


『普通、復讐相手? の子供とか、復讐したい奴からしたら、関係無いんじゃないんすか?』


『…………人間と、私たちモンスターとでの親子関係は、かなり違うのでしょう』


ファルも、そこまで深く知っている訳ではない。

それでも、これまでスティームと共に冒険してきた中で、人間たちは自分たちモンスターよりも自身の子に深く愛情を注ぐのだと……その期間がモンスターよりも長いというを知った。


『ヴァジュラは……親ではありませんでしたが、それでも群れのリーダーだったのでしょう。同族たちが殺られて、ほんの少しは私たちやスティームさんたちに怒りを感じたでしょう』


『ん~~~~~? あいつらはあいつらで満足のいく戦いが出来た筈だから、別に怒りを感じたり恨んだりしなかったっすよ』


『……そうでしたか』


聞く相手を間違えたと思ったファル。


『ともかく、これは私の憶測ですが、復讐相手に子供がいると知れば、ディーナという冒険者はその虎竜の子に、かつての自分を重ねてしまうのでしょう』


『…………親を殺された自分を、だよね』


『えぇ、そうです。スティームさんたちの話を聞いている限り、殺し合いの域に達する戦いではないとはいえ、アラッドさんに一矢報いた実力を考えれば、相当な腕を持った冒険者なのは間違いないでしょう』


『だよな~~~。俺も戦れるなら戦ってみたいっすよ~~~』


『……とにかく、それだけの実力があれば、並大抵のモンスターには負けないでしょうが、虎竜も話を聞く限り並大抵のモンスターではない。となれば、戦いの際に起こる油断や気の緩み一つで、ディーナという冒険者が殺されてもおかしくありません』


本当に、まだ出会ったことすらない。

だが、三体ともアラッドたちの会話から、いかに虎竜というモンスターがイレギュラーな存在で、どれだけの戦闘力を秘めているか、ある程度予想は出来ていた。


『アラッドさんたちは、そうなってほしくないって思ってるから、伝えない方がいっかって話してるのか~』


『そういう事です。まぁ、私たちが先に見つければ、戦うのはクロになるので、問題はありません。それに……一応ですが、虎竜が身籠っている。もしくは子供が生まれたかもしれないというのは、まだ確定ではありません』


必要以上に、それを考えることはない……と思っているファルだが、それでもガルーレが思い付いた内容に関して、モンスターとしての本能的に完全否定出来ないところがあった。


『……そういえばさ、仮にっすよ。仮にっすけど、クロさんかディーナって冒険者が虎竜をぶっ倒して、虎竜の子がどこからか現れたとするじゃないっすか。そしたら、その子はどうするんすかね』


『それは…………解りませんね。少なくとも、私たちがどうこう出来る話ではない』


自分たちにどうこう出来る話ではないと語るファルだが、人間のた立場になって物事を考えられるファルからすれば……現在子供であったとしても、討伐すべきだと考えられる。


クロか……それともディーナが討伐し、クロは主人であるアラッドに許可を取り、ディーナは思うところがあって逃がした場合、それはそれで一つの選択肢ではある。

ただ、問題は親を殺された虎竜の子が怒りの矛先をどこに向けるか。


クロか、それともディーナだけに向けるのであれば、一応問題無いと言える。


クロもディーナも、いずれ虎竜の子が自身に戦いを挑むのは、自然の……感情の摂理だと理解しているから。

だが、そこで怒りの矛先がクロやディーナ個人ではなく、人間全体に向けられてしまうと……とんでもない大事件、大虐殺が引き起こされる可能性が高い。


『因みに、クロは仮に虎竜に子がいた場合、どのような判断を下しますか』


『僕は…………』


ファルの問いに、クロは直ぐには応えられなかった。

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