百五十六話 過去にない出来事
(もしかしたらとは思ってたけど、まさかあんな結果になるなんてね……ふふ、やっぱりアラッドは色々と持っているようだ)
腹でっぷり貴族がオークション会場から退出し、病院へ運ばれるまでフールもアラッドと同様に爆笑したい気持ちを抑えるのに必死だった。
(無駄に怒鳴り散らすだけではなく、まさかその場で気絶してしまうとは……あの者は貴族として終わったも同然だな。それにしても、アラッド様にあのような暴言を吐くとは……まぁ、今は顔を隠されているのだから、仕方ないか)
パーシヴァル家の騎士団長であるグラストは腹でっぷり貴族の行動に対し、笑うといった感情は起きなかった。
だが……ただただ醜く、滑稽だと思った。
腹でっぷり貴族がアラッドに向かって暴言を吐いた瞬間から、冷徹な目をずっと向けていた。
周囲の何名かがそのことに気付き、思わず肩を震わせた。
腹でっぷり貴族が会場から消えた後、閉めていた蓋が完全に壊れ……会場に割れんばかりの笑い声が起こった。
グラストの様に冷静さを崩さない者もいるが、腹でっぷり貴族の一連の行動には老若男女問わず、大きな声で笑ってしまう。
司会者である男性はギリギリ声を出して笑うことを抑えたが、本当は参加者たちと同じく大きな声を出して爆笑したかった。
(何度もオークションの司会者を務めてきたが……ふ、ふふふ。あんな醜態を晒す方は初めてみましたね)
腹でっぷり貴族の爵位は決して低くない。
低くないのだが……低くないからこそ、貴族として今回受けたダメージはあまりにも大き過ぎる。
腹でっぷり貴族はアラッドが持つ黒曜金貨が本物だと証明され、穴があったら入りたい心境になったのだが……怒りでストレスが溜まり過ぎた影響で、穴があっても入れなくなってしまった。
今回と同じ事例は今までになく、腹でっぷり貴族の滑稽な姿は永遠と社交界で語り継がれる……かもしれない。
(それにしても、アラッド様が奴隷に興味があったとは……少し意外でしたね。まだお若いですが、既にそういった事に対して興味が芽生えてきてるのか……もしくは、単純に模擬戦の練習相手が欲しいのかもしれませんね)
理由は違うが、アラッドが競り落とした奴隷たちは綺麗どころであり……強さも兼ね備えている。
パーシヴァル家に仕える兵士や騎士たちも、勿論強い。
だが、アラッドが競り落とした奴隷たちは騎士たちとはまた別の強さを持っている。
「これにて、本日のオークションは終了させていただきます。皆さま、本日は御参加いただき誠にありがとうございました!!!」
腹でっぷり貴族が会場から退出してからもオークションは続き、その中でアラッドは魔眼のスキルブックを金貨百七十枚で落札。
そして参加する気は全くなかったフールが競り合いに参戦し、空間収納のスキルブックを金貨三千枚で落札した。
「行くよ」
「「はい」」
オークションが終われば商品を購入した者たちは別室に向かい、中の様子が外には絶対に漏れないようになっている個室で落札額分の現金を支払い、商品を受け取る。
特に焦る必要もないのでゆっくりと列に並び、自分の番が来るのを待つ。
しかし、落札者達が並ぶ列は普段であれば落札者同士が楽しく会話をしているものだが、今回に限っては何故か誰も話さない。
話すにしても、超小声で会話を行う。
その理由は……多数の商品を巨額で落札した少年と、落札した商品は一つだけだがその額が並ではない落札者がその列にいるから。
正直……是非話しかけたい。
そう思う者は多数いた。
細かい正体は知らなくても良いから、少しでもお話してみたい。
だが、三人が放つ少々いかついオーラが同じ落札者達を寄せ付けなかった。
普段であればフールも同じ落札者と軽く会話をするが、今回に限ってはあまり正体がバレたくないので、全力で話しかけるなオーラを零していた。
そして結局三人に話しかける者は一人もおらず、アラッドたちの番が回ってきた。
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