百四十六話 経験がないので恥ずかしい

アラッドは変声の効果付き仮面を手に入れる為に、その材料を錬金術の師であるソルバースに制作を頼んだ。


勿論、ソルバースがアラッドからの頼みを断る訳が無く、

直ぐに制作に取り掛かる。


(しかし何故アラッド様は俺にわざわざマジックアイテムの仮面を…………いや、余計な詮索をするのはよそう)


きっと何か事情があるのだろうと思い、無心で仮面の制作を行う。

そして数日後にはアラッドの元にソルバース作の仮面が届けられた。


「……どうだ」


「ッ!! 声は……しっかりと、変わっています」


「そうか、それを聞いて安心しました。ところで、見た目はおかしくありませんでしたか?」


「はい! 特におかしいところはありませんでした」


オークションに仮面を付けて正体を隠して参加する者は決して珍しくない。

加えて、ソルバースのセンスは中々悪くなく、仮面を付けても他者から笑われることはない。


(おかしくないか……そもそもこういった仮面を付ける機会がないから、付けた時の外見が少し不安だったが問題はなさそうだな)


前世では当たり前だが、顔に仮面を付けたことなどなかった。

子供の頃に戦隊ものやライダー系の仮面であれば付けたことはあるが、そういった物と比べて見に付けるのには段違いの恥ずかしさがある。


「ところで、アラッド様はいったいどんな商品をお買いになるのですか?」


「やっぱり気になりますか?」


「えぇ、それは勿論気になります」


メイドの問いに対して、この前も同じ質問をされたことを思い出した。


「アラッド様は基本的に無欲な方ですからね。そんなアラッド様がオークションに参加するとなれば、やはりどんな商品を競り落とすのか気になってしまいますよ」


「無欲ですか? いきなり父さんにモンスターと戦う許可が欲しいと言ったこともあるので、無欲ではないと思いますけど」


「え、えっと……そ、それとこれとはまた話が別かと思います」


アラッドがフールにモンスターと戦う許可が欲しいと伝えたのは、確かに大きな頼み事……欲かもしれない。

だが、それ以降は殆ど何かが欲しいと頼むことはなくなった。


毎日鍛錬を積むか、モンスターと戦うために森へ向かうか錬金術の鍛錬を行う。

そういった生活サイクルを送っていることはメイドたちも当然知っている。


フールの子供たちは皆自己鍛錬を怠らないが、その中でも従者たちから見てアラッドは一つ抜き出ている。


「そうですか……まぁ、それなりにお金を使うつもりではあります。何を買うかは、その時になってみないと分かりませんけどね」


「……アラッド様のおっしゃる通り、その時になってみないと決定出来ないかもしれませんね。アラッド様が何をお買いになるのか、今から楽しみです」


嘘ではなく、本心。

パーシブル家に仕える従者たちにとって、アラッドは謎多き人物。


故に、何に大金を使うのか気にならない訳がない。


(楽しみにしてくれてるところ悪いが、もしかしたら鉱石だけ競り落として終わりってパターンもあるからな)


アラッドの性格を考えれば、そうなってしまう場合も十分あり得る。

しかしオークションはまだ二か月先。


それまでは今まで通りの生活サイクルを送りながら、オークションが開催される日を待つ……だったが、オークションが開催される十日前に一通の手紙がアラッド宛てに送られてきた。


「アラッド様、お時間宜しいでしょうか」


「良いですよ。入ってください」


日課のポーション造りを行っていたが、丁度切りの良いタイミングだったので作業の手を止めた。


「こちら、アラッド様宛てのお手紙でございます」


「俺宛ての、手紙???」


手紙でやり取り行うほど親しい者はいない。

と思ったアラッドだが、別段親しくない者にも手紙を送ることはある。


「えっと、いったい誰からですか」


「イグリシア侯爵家のご令嬢である、レイ様からです」


「……なるほど、分かりました」


一目で嫌そうというのが分かる表情で従者から手紙受け取り、早速封を開いて手紙を読み始めた。

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