百四十五話 バレたら今よりも……
「それでは、今回のオークションに参加するのは確定なのですね」
「はい。そろそろ溜まった金を使おうと思って」
鍛錬の休憩中、フラっと現れた騎士団長のグラストはアラッドからオークションに参加すると聞き、良い判断だと思った。
(溜まった、という言葉では生ぬるいほどの金額を持っている。おそらく、今回のオークションに参加する者たちの中で、一番自由に使えるお金を持っているのはアラッド様だ)
予想ではなく、断言。
まだ七歳の子供が大人顔負けの金を動かせる。
その事実を改めて認識し、グラストは色んな意味で恐ろしい子供だと感じた。
「アラッド様な、どんな物でも負けることなく競り落とせるはずです」
「ま、まぁ……そうかもしれませんね」
絶対に競り下ろせると断言しない本人だが、心の中では欲しいと思った物は多分手に入る。
なんて傲慢だが、間違いはない事実を確信していた。
「アラッド様は、何か欲しい物はあるのですか?」
「……今のところ特に、って感じですね。珍しい……もしくは希少な鉱石が出品されるなら競り落そうとは思ってます。ただ、それ以外の物は……その時になってみないと分かりませんね」
「なるほど。確かに当日になってみなければどんな商品が出品されるか分かりませんし、そう思ってしまうのも仕方ありませんね」
オークションには当然、ダンジョンの宝箱から入手した武器なども出品される。
それらの武器に決して興味がないアラッドではないが、今のところ現状の武器で納得している。
(アラッド様は無欲な方ですからね……本当にその時になってみないと使わなさそうですね)
実戦で使うロングソードもまだフールから誕生日プレゼントに貰った鋼鉄の剛剣を使っている。
(宝石などには興味がなく、今はまだ質の高い武器や防具には興味がない……人材、には興味があるのだろうか)
オークションには一般の店では手に入らないような奴隷も商品として出品される。
「話は変わりますが、冒険者として領地から出発する際にはお一人で行かれるのですか?」
「……多分、そうなりますね。あ、クロがいるんで厳密には一人じゃありませんね」
頼れる相棒、クロがいる。
といった理由で、領地から出発する前に誰かとパーティーを組もうとは全く考えていない。
(クロと一緒に出発するとしても……危険過ぎる、とは言い切れないか)
グラストもクロの力はある程度知っているので、アラッドの背中を十分に守れる存在だと認識している。
「納得の理由ですね。話を戻しますが、オークションに参加する際には正体を隠して参加した方が良いかもしれませんね」
「? なんでですか???」
「今のところ、フール様はアラッド様のお陰で増えた財産を知られる様な行いはしていません。ですが、アラッド様がオークションで派手にお金を使った場合、いったいその出所はどこなのか……そこを疑う者が現れるかもしれません。アラッド様は、製作者だとバレたくはないのですよね」
「あ、あぁ~~~~~、なるほど。はい、バレたくありませんね」
いずれバレてしまうのは仕方ないと思っている。
ただ……冒険者になる前の段階でバレると、更に婚約の話が殺到する可能性大。
下手すれば国外の貴族から婚約話が飛んでくるかもしれない。
「バレると、おそらく沢山の縁談が来るかと思います。アラッド様が将来冒険者になると知っていたとしても、その可能性は大いにあるかと」
「うわぁ~~~~……それは真面目に勘弁してほしいです」
無意識に頭の中で想像してしまい、表情が思いっきり歪んだ。
面倒、拒否などの感情がモロに出た顔を見て、グラストは苦笑いを浮かべた。
「なので、変装のマジックアイテムを買っておいた方がよろしいかと」
「そうですね……当日までには絶対に用意します」
しかしアラッドは直ぐに買う以外の入手方法が頭に浮かんだ。
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