百三十九話 相応しい要素がたくさん?

糸による攻撃方法の一つを聞き、爆笑を堪えた後……アリサは一番気になっていたことをアラッドに尋ねた。


「それで、アラッド……気になる子はいた?」


「えっと、気になる子ですか」


「そうよ! 気にるとかじゃなくても、この子可愛いな~とか綺麗だな~~って思った子とかでもあり!」


アラッドがお茶会で出会った令嬢は、もしかしたら将来自分の義娘になるかもしれない。

そう考えると、やはり母親であるアリサとしてはとても気になる点だった。


「可愛いや綺麗だと感じる子は全員でしたけど……気になる子はいなかった、と思います」


「あらそうなの? 将来的にはこの子となら~って思えるような令嬢もいなかったのかしら」


「将来的に、ですか……」


そうなるとまた話は変わってくる。

アラッドは今のところ、中身は嫌いではないがヴェーラたちの外見に惚れていない。


惚れたらそれはそれで犯罪だと思っている。


だが、後十年近く経てば……ヴェーラたちを見て、どう感じるかは分からない。


(十六歳、十七歳のヴェーラたち……その時になれば、気になる子の一人か二人はいるかもしれないな)


全員が美しく、可憐に成長するのは現在の容姿を考えれば確定事項。

同年代の令息たちの中には、現時点の彼女たちの容姿に惚れる者も少なくない。


「可能性はゼロとは言えませんね。もしかしたら、今回のお茶会で出会った四人の中の誰かを気になり始めるかもしれませんし、他の令嬢の方が気になるかもしれません」


「あくまで将来的にはって感じなのね……そういえばアラッド、お嫁さん候補としてフィリアス様はどうかしら」


「ゲホ、ゴホッ!!!」


アリサの口から飛び出てきた言葉に対し、全く予想していなかったアラッドは思いっきり咽た。


「か、母さん。な、何を言ってるんですか」


「だから、フィリアス様はどうなの」


「ど、どうと言われても……その、素晴らしい女性になると思いますが、自分のお嫁さんどうこうとして選べる方ではないかと」


侯爵家の三男であるアラッドは貴族の世界では、それなりに高い立場。

だが、そんなアラッドからして第三王女であるフィリアスはハッキリ言って、どう足掻いても手が届かない相手。


自分の頭の中でもし付き合えたら~~、なんて妄想する分には構わないかもしれないが、公の場で自分の相手としてうんたらかんたらと言える相手ではない。


「そうかしら? フィリアス様は割とアラッドのことを気に入ってたと思うけど」


「そ、そうですか?」


出会ったのは一度のみだが、確かに最終的には友達と言える距離の近さになったかもしれない。

しかしそうだとしても、基本的には友人という立場から動くことはない。


「仮にそうだとしても、俺がフィリアス様と婚約するなんて夢のまた夢の話だと思いますけど」


「そうかしら? 確かに男爵家や子爵家の出身だと厳しいかもしれないけど、侯爵家出身の者が王族と結ばれた例は過去にあるのよ。ねぇ」


アリサが後ろに立つメイドに問うと、当たり前だと言わんばかりに頷いた


「えぇ、そうですね。アリサ様のおっしゃる通りです」


アリサの言葉通り、例は過去に存在する。


アラッドの場合、侯爵家の三男なので立場は問題無い。

そして実績などについてだが、今のところ公の記録として七歳の時点で女性騎士に一対一の勝負で勝った。


この内容は既にフィリアスの耳に入っており、その話を全面的に信じている。


加えて、アラッドの将来はリバーシやチェスなどを生み出した娯楽の王……というのが、世間一般的な認識。

勿論正体は未だバレていないが、この実績を考えればフィリアスの横に立つ人物として、大きな加点となる。


そしてリバーシやチェスの売り上げて得たお金。

財力という点を考えても、アラッドは現在令息という枠の中で考えればダントツの一位。


最後に、実際にフィリアスの父親であるバイアード国王との面識があり、好印象を持たれている。


「贔屓目抜きにしても、アラッド様はフィリアス様の婚約者として相応しい要素を幾つも持ち得ているかと」


「私も同じ考えよ!!!!」


「そ、そうですか。ありがとうございます」


嬉しい評価ではあるが、王族との婚約など面倒な匂いしかしないので、アラッドとしては是非とも遠慮したい内容だった。

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