三十二話 販売開始

アラッドがリバーシを作り出してから三日後、フールが懇意にしているアラブ―ル商会の商人、リグラットが屋敷にやって来た。


そして商品を紹介する席には勿論アラッドも座り、リバーシについての説明を行う。

軽く商品説明を終え、リグラット一戦行って楽しさを知ってもらう。


当然、アラッドが勝利した。

リグラットはもう一戦!!! と言いたいところだったが、仕事中であることを忘れずに値段などについて話し合いを行う。


「銀貨一枚ぐらいで良いんじゃないですか?」


銀貨一枚は日本円にして一万ほどの値段だが、決して平民の手が届かない値段ではない。

リバーシを買ったら、夫が小遣いを溜める分がなくなってしまう……そんな程度なので、この世界では高過ぎる値段ではない。


「……値段としては妥当ですね。ただ、パーシブル家……そしてアラッド様の懐に入れる割合が売り上げの二割と一割というのは本当にそれで宜しいのですか? 商人の私としては嬉しい内容ですが、このリバーシという娯楽はどんな方でもハマるでしょう。今後の売り上げを考えればそちらの割合がもう少し高くてもよろしいと思うのですが」


商人としては主張された権利がたったの三割ということに関して、本当に有難く……心の底から嬉しいと思っていた。

制作者が主張する権利の割合が少なければ、当然自分の懐に入ってくる金も増える。


だが、アラッドが作ったリバーシはリグラットにとって心底驚きの娯楽だった。

遊んでいて楽しいと感じるのは勿論だが、一回プレイしただけで戦略性があると見抜き、尚且つ制作に必要な材料費が安い。


そして低価格で売ることが出来るので、買い手が多い。

諸々の内容を考えれば、アラッドが二割や三割の権利を主張してもおかしくないのだが、本人の意見は全く変わらなかった。


「そのままで大丈夫ですよ。売り上げの一割だけでもとんでもない金額になると思うので」


「そうですか。それでは、こちらの内容で契約させていただきます」


特別な契約書にサインを行うことで、必ずアラッドに一割とパーシブル家に二割の売上金が入金されることが確約された。


「アラッド様、一つお願いしたいことがあるのですがよろしいですか」


「はい、なんでしょうか」


「こちらのリバーシ、商品として販売を行う前に陛下に一つお送りしたいので、是非発案者であるアラッド様が作った一品をいただきたい。勿論、それ相応の金額を用意させていただきます」


リグラットが何を考えているのか分かったので、その提案を飲むことにした。

ただ、国王が使うリバーシを中途半端な素材で作ることはできない。


「分かりました。俺の手で国王陛下のリバーシを作りましょう。しかし、国王陛下が使うリバーシの素材にそこら辺の木を使うわけにはいきません。あまり露骨すぎない程度の素材を頂いていもいいですか」


「勿論です。必ず用意させていただきます。素材に関しては……トレントの木などはいかがでしょうか」


木のモンスター、トレント。

ランクはDであり、無数の枝を使って物理攻撃を行い、木魔法をメインで遠距離攻撃を行う。


一般的な木と比べて強度が高く、トレントの木を使った家具などは人気が高い。


そしてあからさまに機嫌を取ろうとする厭らしさがない。


「そうですね……丁度良いですね」


話は纏まり、後日リグラットが送ってきたトレントの木を使い、集中力をフル稼働させてリバーシを作り上げた。

パーシブル家以外の人間で初めて国王陛下がリバーシを手にしてから三日後、一般市民たちの元にリバーシが渡り始めていた。


最初に一週間ほどは面白半分で買う者が殆どだったが、その面白さと安さがあっという間に広まって一般市民だけではなく貴族たちもこぞってリバーシを買い始めた。


そして販売から一か月後、パーシブル家の元に一か月の売り上げ金のうち、パーシブル家とアラッドの懐に入った分の金額が書かれた洋紙が届けられた。


「アラッド、これが君の懐に入った金額だ」


「……はっ!?」


洋紙に書かれている金額を見たアラッドからは思わずそんな言葉が漏れてしまった。

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