二十六話 少し申し訳なさを感じる

「二人が期待してくれてるのは嬉しいですけど、俺は騎士の道に進むつもりはありませんよ」


「分かっています。アリサ様と同じ冒険者の道に進むのですよね」


「えぇ、その通りです。俺がそういう道に進んでも……意外と上手くいかないと思いますよ」


あまり詳しいことは知らないが、貴族の世界はかなり黒いということだけは知っている。

なので、自分がそこに近い世界で生きていくのは性に合わないと断言出来る。


「グラストさん、俺は結構負けず嫌いです。それと……家族をバカにされたりしたら、そいつを許しません」


「……つまり、集団に属せば頻繁に衝突するということですか?」


「その通りです。それに俺のエクストラスキル、糸は……騎士の道に相応しい技がない。なんだかんだしょうもない理由を付けてくるバカが出てくるのは当然かと」


確かにアラッドが持つ糸は搦手が多い。

騎士道精神に相応しい力とかといえば、そうでないという考える者が多いだろう。


「それに……俺はあんまり縛られるのが好きじゃないんですよ。だから、騎士に向いてないんですよ。ドラングは父さんに憧れてるみたいなので、いずれ父さんを超えるのはドラングかもしれませんよ」


五歳の誕生日に同じく剣技のスキルを習得し、火魔法のスキルも習得した。

その事実にドラングは運命を感じていた。


アラッドに勝つという目標は消えていないが、いずれはフールの様な騎士になるという明確な目標を持っている。


「……それでは、絶対に騎士の道に進まないのですね」


「そうだな。俺が冒険者になって、騎士団の方から依頼を出されたら受たりすると思いますよ」


「なるほど、その可能性は十分にありそうですね」


「まっ、そうなるには俺が冒険者として有名にならないとだめですけどね」


「アラッド様なら直ぐに高名な冒険者になりますよ」


それについては確信していた。

グラストなら冒険者になって数年もすれば有名な冒険者として名を馳せるだろうと。


(どの道に進んでも、アラッド様は大成するでしょう。その武勇伝を聞くのが今から楽しみですね)


アラッドがこのまま成長し続ければ、ドラゴンを倒す可能性は十分にあり……いつしかドラゴンスレイヤーと呼ばれる日も遠くない。


「グラストさん、どうせなら打ち合ってくれませんか」


「えぇ、勿論構いませんよ」


相手は完全に格上の相手。

アラッドは一切気を抜くことなく身体強化を使い、体や武器に魔力を纏って挑む。


(強い……これが五歳児の実力とはやはり信じられませんね。糸を使わずにこれほど戦えるとは……本当に将来が楽しみな方だ)


アラッドのスタミナが続く限り二人の模擬戦は続き、数十分後にグラストと別れて大の字で倒れていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ~~~…………さすがグラストさんだな。全く攻撃が通らなかった」


躱され、受け止められ……アラッドの攻撃は全く体内に響くことはなかった。

模擬戦にて糸を使わなかったが、それには多少の理由があった。


それはアラッドの中で糸に対してそれなりに信頼を置いてるから。


(糸を使って勝てなかったら……まだまだ食らいついてそうだな)


何がなんでも勝ちたい。そう思ってしまいそうなので糸は使わずにそれ以外の力で戦った。


「小さな隙ぐらいはつくれそうだけど、そこを突いても絶対に対処されるよな……にしても、父さんやグラストまで俺が騎士になるのを期待してたのか……申し訳ないけど、そっちの道に進む気は本当にないんだよな」


騎士という言葉にカッコ良さは確かに感じる。

そしてアラッドは侯爵家の三男であり、そうそう絡んでくる相手などいない。


だが、面倒な奴が絡んでくる可能性がゼロとはいえない。

そういった相手を冷静に対処出来るか……本人は絶対に出来ないと思っている。


(母さんをバカにされることが多いだろうけど、父さんをバカにされてもキレてその場で半殺しにしそうだし……俺にそういう世界は絶対に合わないんだよな)


しかし自分のそういった道に期待してるフールに対し、多少の申し訳なさを感じた。

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