第7章・聖都編 前半
第387話 こんばんは、やけに気合入った連中が来ました!
〈教会都市〉ミレインのジュナス教系施設を統括する聖ドナティアロ教会は、入ってすぐの正面ロビーまでなら誰でも到達できる。
もっと言うとタダで帰れなくてもいいなら、その先にも足を踏み入れることはできなくはない……というのが普段の状態である。
だがそのときは少し様子が違った。
数日前からこの街の主と呼んでも間違いではない、ミレイン司教アクエリカ・グランギニョルが、側近の
ゆえにむしろその不可侵性は強調されており、左右の奥に回廊の伸びる受付カウンターには、馬のたてがみのようなソフトモヒカンに整えた長い黒髪に、鋭いオリーブ色の眼を持ち、筋骨隆々の長身を黒服に包む怪僧が、どかりと腰を下ろしている次第である。
「来るだろうとは思ってたけどな……てめえらみてえなのがよ」
正面ロビーは結構広いが、なにも戦うためにそういう設計なのではない。
ベルエフ・ダマシニコフはため息を吐いて、今夜のお客様たちを見回す。
ほとんどが彼と同じ獣人族に属する、都合十二人の集団が、明らかに表敬訪問ではなさそうな態度で、殺気を放ち睨みを利かせてくる。
「いちおう名前を聞いておこうか」
ベルエフの申し出に対し、竜人と思しき捻じ曲がった角の生えた男が歩み出て、腰の後ろで手を組み、反っくり返ってがなり立てる。
なにかそういう決まりがあるのか、それで威圧しているつもりなのか、おそらく両方なのだろうが、声がデカくてシンプルにうるさい。
「お初にお目にかかる! 私の名はサラバイ!」
「はいはい、サラバイくんね。その調子で所属組織の方も教えてもらえっかな」
サラバイは眼をひん剥いて唾を飛ばしながら叫ぶ。たぶんそういう喋り方しかできないのだろう。
「我々は〈神獣結社〉と申す集まりである!! あなた方ジュナス教会におかれては、おそらく我々を認識しておられるものと存じる!!」
「してるとも。半年前の一件から急速に衰えた〈永久の産褥〉と同系統の、俗に言う〈五十の悪魔〉を信仰するカル……えーと、少〜しだけマイナーな宗教団体だよな。つーか〈産褥〉のセクトなんだっけ?」
「違ぁう!! あのような俗物どもと一緒にされては困る!!」
「あー、すまんすまん、完全に別物なんだな。おじさん不勉強で反省」
なけなしの誠意が通じたようで、サラバイは鼻息荒く話を続けてくれる。
「ベルエフ・ダマシニコフ司祭! 貴殿におかれましては、このような箴言を巷間で耳に挟まれたことはないだろうか!
いわく、英雄義賊死して神と成り、梟雄奸賊死して魔と成る!」
「ああ、あるな。ガキの躾で使われるやつだ」
「しかしてその実、貴殿はこれをどう思われるだろうか!?」
打てば響く反応に興奮したようで、詰め寄らんばかりの勢いで尋ねるサラバイに対し、ベルエフも口調を真剣なものに改めて、本音そのままで回答した。
「あながち与太とも言い切れねえ。ニュアンスこそ少し違うが、それに近いことはありうると思ってる」
サラバイは表情そのままに滂沱と涙を流し始めた。感情の動きが激しすぎて怖い。
「感無量だ!! 出会い方さえ異なれば、我々とあなたは酒を酌み交わす仲となっていたであろう!!」
「初対面の相手に、いきなり関係性を結論まで持っていくんじゃねえよ、性急すぎるだろ」
「だがすでに我々とあなたが決別する未来は、貴殿の眼にも映っているものとお見受けするのだが!!」
「意外と話早いから俺お前のことちょっとだけ好きになりかけてるわ」
しかし実際、サラバイの言う通りではある。眉根を揉み解した後、ベルエフは改めて直截に尋ねた。
「で、今回お越しいただいたご用件は?」
ひときわ声を張るサラバイを筆頭に、〈神獣結社〉の熱狂がロビー内に
「ズバリ我々はここで英雄! すなわち神と成りに来た!!」
「だろうね……」
「神といっても貴教会における救世主とは意を異にする存在であることをここに明示する!」
「大丈夫、それはわかってる」
ベルエフの冷淡な対応でも、〈神獣結社〉の盛り上がり切った気勢はまったく衰えることなく、サラバイの演説も佳境を迎えつつあった。
「むしろ我々は、救世主ジュナスなる存在を、邪悪なるものと規定している! よってこれを排せば、我々は英雄、すなわち真なる神と成れるであろう!!」
残響が消えてしばし訪れた静寂を、ベルエフは遠慮がちに切り開く。
「なるほどね、話はよくわかった。だが生憎、今ここには救世主ジュナス様はおわしません。そして、司教座の主であるアクエリカも留守にしてる。お前ら、来る時期を間違えたんじゃねえか?」
そこで初めて、サラバイの表情に変化が生じた。
獰猛なその笑みを合図にしたように、他の十一人が動き始める。
「ご心配には及ばぬ……我々〈神獣結社〉十二人の幹部について、聞き及んでおられることもありましょうな?」
「ああ。いわく、てめえら十二人は一人一人がジュナス教会における俺たち
「その通り! もちろん
目的はよくわかった。だからこそ、ここから先へ通すわけにはいかない。
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