第59話

「母さん、明日の生放送忘れてないよね?」

 家に帰ると、優斗が声をかけてきた。

「あ、そうだった。土曜の夜8時から生放送だっけ……」

 歌の練習を最近さぼり気味だ。優斗の作った曲。頑張って歌わないと。

 東御社長を案内する場所の選定もまだ中途半端だし……いや。それは日曜もあるから日曜でもいいか。土曜の夜の生放送までは歌の練習。それからまぁ、いつもの貯まった家の仕事をこなすんだよね。掃除に大物の洗濯に、あとは重たい物の買い物。

「あ、優斗、明日買い物付き合ってもらえる?」

「んー」

 昔は優斗自身が私の両手をふさいで買い物を邪魔してしまうことも会ったけれど、今は優斗は私の両手をふさぐ荷物を持つのを手伝ってくれるんだよね。

 ああ、天使。いい子だわ。もう、うちの子いい子過ぎない?高校1年の男の子が、親の買い物の手伝いなんて……。

 って、大丈夫かな?頼りすぎてない?むしろ友達と遊んでおいで!とか言わないといけないんじゃないの?

「あ、用事があるなら無理しなくていいからね?一人でも大丈夫だから!」

「行くよ。買い物メモしたいし」

「え?買い物をメモ?」

「弁当のさ、評判がいいって言っただろ?何を買ったのか分かればあらかじめ見てる人もその材料買っておけば、作れるじゃん?」

 ああ、なるほど。お弁当のおかずを考えるのって何気にめんどくさいもんね。真似できたら楽だ。

 確かに、冷蔵庫の中身が同じものであれば、似たようなお弁当を作れるか。

 それにしても……。

「なんか優斗の作ったVtuberのキャラクターの目指すところがだんだんおかしくなってない?」

「まぁ、もともとの目的が目的だし、家庭的なところをアピールできるのって全然おかしくないよ」

「え?目的?」

 確か、お金を少しでも稼いで私に楽をさせたいとかいう、なんかこれまたうちの子可愛すぎる案件だった気がする。

 それで、家庭的なところアピール?

「あ、いや、なんでもないよっ。胃袋つかんでとかそういうの、あ、いや、いや、その、うん、とにかく、35歳っていう設定すら新しいんだから、新しい方向性のキャラクターにしていって、独自性を出した方がいいから、そう、そう!」

 はぁ。

 独自性ねぇ。どこを目指しているのだろうか。

「本当、人気あるんだよ、この間も別のVtuberが配信中に話題にしてくれたし。あ、コラボ希望してる人もいるんだけど。歌を一緒に歌わないかって……」

「コラボ?歌?」

「うん、女性二人で歌う歌。超時空別荘ミクロスFっていうアニメの曲なんだけど」

 アニメの曲……か。

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