第31話

「は?嫌だよ。年の近い血のつながりのない妹や姉なんていらない。本当の妹以外、いらない。あのね、ラノベとかで美少女の義妹やら義姉やらができて、いい感じになるなんてしょせん作り話だから。なんだかんだと家に居づらくなって出ていく未来しか見えない」

 って、猛反対された。

 ……それで、再婚はあきらめたんだよね。子持ちのシングルマザーでもうアラフォーの私と結婚して、突然父親役をしようなんて人が、見つかるわけないもんね。

 息子が父親が欲しいとうようなことを言うことはそれ以降なかったし。

「へぇー。あ、深山がそういうの持ってるのも見たことないけど、持たないの?」

「私はオタクに理解はあるけど、私自身はオタクじゃないもの。あ、それよりほら山崎さん、漫画家と結婚もいいなぁって言ってたし、何かグッズを持ってみる?家からオタクには見えないけれど、オタクから見たら仲間だって分かるようなもの持ってこようか?」

 山崎さんがんーと首をかしげてちょっと動きを止める。

「うん、いいかもね。正直、若いころはオタクはないわーと思ってたけど、深山んとこの優斗君の話聞いてると、めちゃくちゃ優しくていい子で、ちょっと最近見る目変わってきたんだ。確かに、オタクって言われる人って、セクハラはしないし、酒も節度を持った飲み方するし、暴力振るうようなタイプでもないし。私、なんでそんな素敵な人達と距離を置こうとしてたんだろうって、昔の自分を殴り倒したいって思うことあるもの」

「あははは、じゃぁ、いくつか持ってくるね。あと、社会現象にまでなった有名な映画の原作の漫画とかいくつか持ってこようか?」

「ありがとう、深山!」

「うん、明日には持ってくる……というか、来週から私、出向になるから、仕事しばらくお願いね」

「は?聞いてないよー!」

 うん。言ってないし、さっき決まったばかりだし。

 私も、ちょっと前に、同じように、聞いてないよー!って状態だったし。

 ……恨むなら、部長を。

 いや、東御社長?

 まてよ、もしかして、身から出た錆?



 いつもの業務にプラスして引き継ぎ準備。

 もともと山崎さんも私も長い間同じ部署で仕事をしているし、子供が小さいころはちょこちょこ急に休まなければならず、山崎さんが私の分をかなり引き受けていてくれた。だから、本当、感謝してもしきれないんだけど。

 その山崎さんにまた負担が行ってしまう……。

 恩返しがしたいとずっと思っている。山崎さんの婚活を応援して、育休を取るときには山崎さんが返ってくる場所は私が守るんだ。

 そして、何か育児で困ったことがあったら相談に乗ってあげる。子供が保育園で急に熱が出たとお迎えに行くときに子供の無事を祈りながら仕事のことは心配しないでと送り出す。

 ……いっぱい恩返しするからね。

 ぐっとこぶしを握り締め、ひたすら仕事をこなして終業時間になった。

 残業したいのはやまやまだけれど、優斗が待ってる。

 初めから予定されていた残業ならば、夕飯の準備もして優斗に遅くなることも伝えることができる。いや、もう高校生なんだから夕飯くらい自分で用意してもらえばいいんだけれど。いつもよりちょっと遅く帰ったときに、泣きながら駆け寄って抱き着いて来た優斗の姿が忘れられない。

 父親もいなくて、母親の私にも何かあったらと一人で家の中で不安に胸が押しつぶされそうになりながら待っていたのかと想像したら、もう二度と、ちょっとだけだから大丈夫だと予定より遅く帰ることはしないようにしようと誓った。

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