第58話 創造主のみぞ知る。
今回は私の勘違いで動いてしまったけれど、結果助かった。
あのまま帝都に残っていたとしたら、アロイスの言う通りに今頃は宮殿のどこかしらの塔に幽閉されていたかもしれない。
(例え除籍されてはいてもハイデランド侯爵家の血縁であることには間違いないわ。利用価値があるということね)
皇太子の婚約者としてウィルヘルムを支え国に尽くしていた時とは正反対の、皇室のこの手のひら返しは本当に気分が悪い。
が、所詮、人間だ。
人の考えは状況で変わるもの。
特に君主となれば当たり前の選択だろう。
(だからこそ、大事にしなくてはならないわ)
アロイスとイザーク。
この二人を。
英雄であることを捨て私とともに生きていく事を選んでくれたイザーク。
大貴族であるハイデランド侯爵家で高い評価を得ていながらも、辺境の一行政官として勤めてくれているアロイス。
二人がいなければ、今の私はいない。
メルドルフでのこれまでには色々な困難があったけれど、私一人では穢土災禍どころか厳しい冬すらも乗り越えることはできなかっただろう。
(私の命よりも大切だわ)
「アロイス、イザーク。あなた達にはどれだけ感謝しても足りないでしょうね」
メルドルフの心臓であり頭脳なのだ。
だからこそ、わかってほしい。
私以上にメルドルフに居なければならないの存在なのだということを。
「でもこれだけは覚えておいてほしいわ。私に秘して物事を進めないでほしいの。案件によっては全てを話すことはできないこともあるでしょう。でも、できるだけ開示できる情報は私に示してほしい」
報告は大事。
領の将来がかかっているものや、領民やアロイス、イザークが危険に晒される可能性があるのならば、尚更だ。
「いいこと、アロイス」
私はアロイスを指さした。
「今回の南部領の蜂起、あなたが関わっていただなんて、お父様に教えていただくまで知らなかったのよ。まだ帝国には知られていないから良かったものの、あなたが本物の暗殺者に襲われでもしたら……。絶対に無茶はしないで」
「かしこまりました」とアロイスは自分の胸に手を当てて、
「けれどもコニー様。それはこちらの台詞でございますよ。あなた様のようなお方はどこにもおりません。こんなに素晴らしい上司は、ハイデランド侯爵閣下とコニー様だけです」
アロイスや官僚の立てた施作を二つ返事で承認し実行する。さらに全ての事項に関して、部下の自由にさせ、責任と確認だけはとってくれる。
理想の君主だ、とアロイスは身を乗り出しながら熱のこもった口調で言った。
他者に厳しい(当然自分にもより厳しい)天才肌のアロイスに、お父様と同等であると褒められると、なんだか背中がこそばゆい。
「ですので、コニー様には是非とも健康で長生きしていただきたいものです。私にも試してみたいことがまだまだ沢山あります。あれもこれもと、アイデアが浮かぶのです。時間がいくらあっても足りませんので」
「そうね。頑張るわ」
「それとできるだけ早めにお世継ぎをお産みください。メルドルフからの願いです」
「え。……ええ?」
声が裏返る。
「数年は賠償金に頼らねばならないでしょうが、メルドルフの運営目標はあくまでも自立自営。そのためにも政権は安定させねばなりません。政権が盤石でないと経済的にも文化的にも発展していくことは困難です。メルドルフの安定の為にも次世代の誕生は必須です」
子を産むことは貴族の義務だ。
わかっているけど、こればっかりは、ね?
イザークに目をやると、イザークも微妙な顔をしている。
「領主の義務であることは分かってるわ」
分かっているけれど。
私がウィルヘルムの婚約者であったころ、二年も夫婦と変わらない生活を過ごした。だが妊娠の兆候は一度もなかったのだ。
当事はずいぶん悩んだものだ。
そして覚醒し、ここが『救国の聖女』の世界であり、私は皇太子に婚約破棄されてしまう悪役令嬢役だと知った。
物語の流れ上、婚約破棄される悪女に
本当のところは創造主のみ知る、というところだ。
「私とイザークは結婚して間もないし、領主としての責任もある。子のことはイザークと話し合って決めるわ」
「早急にお答えを出していただきたいですね」
「……それよりも」
何気なく訊いたのだろうけど私にとっては繊細な話題だった。若干ダメージを受けた気がする。
ねぇ、アロイス。ちょっと反撃してもいいんじゃないかな?
「アロイスの情報網がどうなっているか知りたいわ」
さぁ質問に答えてもらいましょうか。
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